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2013.05/22 成功する技術開発(27)

半導体用高純度SiCについて学会発表当時はデータも少なく、学位論文を辛うじてまとめられる程度であった。学位論文には、新前駆体を用いたSiCの反応機構について研究結果をまとめたが、日本化学会での発表が妥当であったか悩むところである。S教授から散々のコメントを頂いたが、おかげで研究に対する理解と当時の研究動向の最前線について情報が得られた。

 

無機高分子研究会に所属し学会活動をしていたが、SiC前駆体高分子に関する情報を当時の文献や学会から得ることができなかった。特許にも、フェノール樹脂とシリカの組み合わせあるいはカーボンとポリエチルシリケートとの組み合わせが公開されたばかりで、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの組み合わせについて存在しなかった。

 

そもそもフェノール樹脂とポリエチルシリケートとはフローリーハギンズ理論から相溶しない組み合わせと思われており、この組み合わせで均一になる、というのは驚くべきことなのである。また当時この組み合わせを実験する、ということはフローリーハギンズ理論をよく理解していない、と評価されたのである。S先生のコメントにもそのような見解が入っていた。S先生は当時RIMで実用化されていたリアクティブブレンド技術をご存じなかった。単なる低分子の重合反応という認識であった。χの大きな高分子の組み合わせでリアクティブブレンドが進行するというのは学術の世界ではタブーのようであった。

 

新前駆体を用いた高純度SiCの合成反応は学術の視点から散々な評価であったが、技術としてはまっとうなコンセプトで開発された。すなわちχが大きく均一安定化が難しいので、リアクティブブレンドで安定化させようと反応触媒に視点を置き開発したのである。学会発表でもそのコンセプトをプレゼンテーションしたが、そもそも均一に混ざらない系で触媒を検討する発想を理解できない、とこき下ろされた。

 

S教授のところからその後ππ相互作用を活用した無機高分子の研究などが公開されてくるのだが、技術が学術よりも先行するとこのような事態になる。しかし、このような状況だから春季年会に企業研究者の出席が少なくなってきた、ということをアカデミアの方は気がついているのであろうか。1970年代石油化学が隆盛を誇っていたとき企業研究者の学会参加が多かった、と聞いている。技術と学術が切磋琢磨した時代の話である。

 

学会で技術発表をしづらい雰囲気ができ、企業も技術の成果を機密扱いにして学会発表を控えるようになった。これでは学会に企業研究者の参加が少なくなって当たり前である。ATPの企画で企業参加が少し増加したが、かつての技術と学術が切磋琢磨した状況とは少し異なっている。新しい技術を生み出すために学術が必要かどうかは、人類の歴史を見れば明らかで、学術など無くとも人間の営みとして技術は生まれるのである。しかし、技術の発展するスピードに学術の果たす重要な役割がある。研究のネタを技術の中に探索するアカデミアの姿勢が必要な理由である。1970年代にはそれがあった、と故石井教授から学んだ記憶がある。

 

研究とは新しいことを見つけ出す活動、と故小竹先生は言われたが、この活動は企業の技術者も楽しんでおり、アカデミアだけに許された活動では無いのである。アカデミアがどうあるべきかを論じる立場では無いので、お願いという表現になるが、開発された技術の中に存在する真理を拾い上げそれを人類資産として明確にする活動をできないでしょうか。もしそのような視点の研究発表が学会に増えれば企業研究者は自然に学会参加するようになる。

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2013.05/21 成功する技術開発(26)

フェノール樹脂とポリエチルシリケートを均一に混合した前駆体高分子を用いた高純度SiCの技術発表を日本化学会春季年会で初めて行ったときには、反響が大きかった。講演会場は7分という講演時間の発表に対し、廊下まで人があふれんばかりの混雑ぶり。驚いたのは一番前の席は京都大学S教授の研究室の方々が陣取っていた。

 

企業の研究発表としては、異例の早い時期での発表であった。無機材質研究所で行った研究という位置づけだったので外部発表許可が容易に下りたのだ。しかし、前駆体高分子の重合に関してはたった1日の実験データだけである。研究らしい報告と言えば、前駆体の熱分解を超高温熱天秤で評価したデータぐらいである。7分の講演なのでその程度の内容でも充分であったが、発表後が大変だった。

 

S教授から厳しい質問があり、研究未完成の評価を下されたのだ。今から思い返しても企業研究者に対して失礼な質問だったと思う。学会は完成された研究の発表であり、未完成の研究など発表するな、とまで明確には言われなかったが、それに近かった。

 

10年ほど前から日本化学会ではATPというセッションを設けて積極的に企業技術者や研究者の学会参加を促している。企業研究者の参加が減少してきたための対策であるが、研究の香りのしない技術発表でも許されるような年会であれば、企業参加者は減少しない。アカデミアの先生の中に速報的な内容や技術発表を軽視される方がいるのが問題である。(そもそも企業の技術者が参加しなければ損をするような研究発表がいっぱいであれば、技術者の参加が減少することはないと思われるが。)

 

化学会の春季年会は、学生研究者のデビューの場でもあるが、企業技術者の積極的発表も促すようにすれば、企業からの参加者も増えると思われる。技術のPR的内容でもよい、と思う。その中に科学的研究の香りが入っておれば、新しい研究のヒントが生まれる可能性だってある。かつての技術に対する排他的雰囲気が企業技術者の参加減少の一因のようにも思っている。

 

日本化学会春季年会で高純度SiCの発表を行った理由は、無機材質研究所で行った部分を明確にする目的があった。公的研究機関で実施された部分を早い段階でも公開するのは義務だと思ったからである。しかし散々な結果であった。

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2013.05/20 成功する技術開発(25)

かつて研究開発を行う時に、シーズを基に行うのか、ニーズを基に行うのかという議論が成された時期があった。しかし昨今のiPHONEやiPADを見てニーズを創り出す研究開発が重要、と言う人がいる。

 

シーズとニーズ議論の時にも議論の内容に違和感を感じましたが、このニーズを創り出す研究開発論も「何を今更」という印象を受ける。それぞれ間違ってはいないが、ただその時代に起きた現象を説明しているだけ、との印象を受けるのは何故だろう。

 

企業のこれまでの研究開発でニーズを考えないで行われていた例があるのだろうか。そのスキルに差があるがどこの企業でもマーケティングは行っているはずだ。iPHONEやiPADでもニーズが期待されて開発された商品である。故S.ジョブズ氏にもマーケットを見誤り失敗していた時期があったのは著書を読むとわかる。また、シーズ指向で研究開発を行っていても、将来のニーズを期待しての活動であったはずだ。時代の流れの中で研究開発の効率が悪くなった時にこのような議論が起きているように感じる。

 

iPHONEでは、インテルが事業規模を見誤り、アップル社からチップ開発を依頼されたがコストが合わないという理由で断った話が公開された。ニーズをよく考えて失敗した例になるのだろう。単純にシーズニーズから研究開発の効率をあげる議論はできないように感じる。研究開発のあるべき姿は、企業と市場にイノベーションをもたらし利益を生み出す活動となるが、どのようにイノベーションを起こしたらよいのかは、企業の使命や置かれた環境で変化する。

 

このイノベーションを考える時に価値の共創という市場の動きに注目することは重要である。昔もあったが、モノがあふれてどのような商品開発を行ったらよいかわかりにくくなっている昨今、この価値の共創という市場の動きを活用して研究開発を行うことは重要であり、その方法を解説した本も出版されている。

 

価値の共創ではシーズも重要になってくる。その企業の強みであるシーズから市場で価値の共創が行われ新たな価値が生み出されたならば、他社にまねされにくい独自商品を生み出せるからである。価値の共創過程を見ていると、企業の持っているシーズを新たな視点でカテゴリーを再編成する必要性を感じる。シーズのこのような見直しは、研究開発の効率改善に役立つ手段と思う。

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2013.05/19 成功する技術開発(24)

高純度SiCの前駆体ポリマーは、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂を触媒存在下で均一混合してできる。このような高分子前駆体を用いてセラミックスを製造する、という概念で世界で初めてSiC合成を成功させたのは故東北大教授矢島先生である。1970年中頃にポリジメチルシランを原料にSiC繊維を合成された。しかし、これは1種類の高分子で実現した技術であるが、2種類の高分子を混合してセラミックスを合成するというゴム会社の高純度SiC合成技術は世界初めてであった。

 

そもそもポリエチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせはχが1以上なのでフローリーハギンズ理論では均一混合できない組み合わせである。さらにポリエチルシリケートは無機高分子であり、全く異なる性質の高分子を均一に混合する技術は難易度がかなり高い。科学的に考えていたらアイデアが出てこない組み合わせである。

 

ただし技術は科学と異なるので、科学的にアイデアが出てこなくとも技術的に考えてアイデアを出すことはできる。科学は真理を追究するのが使命だが、技術は機能実現が使命である。科学と技術は使命が異なるので、現象に対する取り組み方も異なる。しかし、学校では教えてくれない困った事情がある。弊社の事業目的の一つに技術の伝承があり、その目的のため研究開発必勝法プログラムを販売している。このプログラムでは技術の視点から問題を考える方法を提供している。

 

技術で現象を捉え考える、とはどのようにするのか。E.S.ファーガソンもその著書のタイトルに使用している「技術屋の心眼」を使うのである。詳細は弊社のプログラムで方法を詳しく説明している。ここでは、SiCを高分子前駆体で合成する方法を考えだしたプロセスを簡単に事例として紹介する。弊社のプログラムを受講すれば誰でもできるようになる簡単な方法である。

 

SiCは、シリカ還元法で合成される。高純度SiCを合成するためには、シリカとカーボンが均一に分子レベルで混合された状態を創り出せばよい。矢島先生のポリジメチルシランはSiとCが分子内に存在するので理想的な状態であるがコストが高い。コストを下げるのは技術屋の仕事である。

 

同一の機能を達成するための一つの方法として、Siを含む安価なポリマーとCを含む安価なポリマーを分子レベルで均一に混合できればよい。前者は当時800円/kgで購入できるポリエチルシリケートがあり、後者は400円/kg以下のフェノール樹脂が存在する。

 

この2種のポリマーの組み合わせはχが1以上なのでフローリーハギンズの理論から相分離する組み合わせとなるが、両者が反応して均一になった状態を心眼で見ることができる。するとできあがったポリマーアロイの中に触媒を見いだすことができる。その触媒はポリエチルシリケートを加水分解する酸触媒であり、またその酸触媒はフェノール樹脂を架橋する触媒でもある。ここまで来れば、ポリエチルシリケートとフェノール樹脂、酸触媒という三元系が高純度SiC前駆体合成に必要であるというアイデアが自然に出てくる。

 

このアイデアを創出する過程を誰でもできるようにしたのが、研究開発必勝法プログラムである。

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2013.05/18 成功する技術開発(23)

無機材質研究所に留学して、I先生から1週間だけ研究所内の実験設備を使い、ゴム会社でできなかった実験の許可を頂いた。この1週間の実験で、高純度SiCの新しい合成法と高純度SiCを用いた焼結技術を完成するのだが、あえて「完成」と表現したのは、ほぼ現在もその時の条件で行っているからである。触媒はスルホン酸系の触媒からカルボン酸系の触媒に変わっているが、フェノール樹脂を助剤としてホットプレスで焼結体を製造しているところまでほぼ同じである。

 

実は、この1週間の実験で信じられないことが起きていた。今でも、なぜそのようなことが発生したのか解明できていないが。

 

炭化物前駆体を用いたSiC化の実験は、温度条件について1600℃、1700℃、1800℃、1900℃の順に行う予定であった。もしこの順序で実験を行っていたら焼結実験は時間が無くてできなかった。また、この温度条件の中に、微粉の粒度が揃ったSiCが得られる最適条件は存在しなかった。実はSiC化の反応条件は、たった1度の実験で最適条件が見つかったのである。

 

なぜたった1度の実験で最適条件が見つかったのか。それはたまたま電気炉が暴走したため、慌てて全電源を落としたが、1週間という限られた時間を思い出し、マニュアル運転で実験を続けたからである。

 

電気炉はプログラムコントローラーで制御されていた。SiC化の実験についてはその電気炉を管理していたT先生がプログラムをすべて組んで、簡単に使えるように準備してくれた。電気炉の運転は、ただプログラムナンバーを選び、選んだプログラムをRUNさせるだけであった。最初の条件である1600℃30分保持のプログラムをRUNさせたところ、1600℃で保持されず、電気炉は温度上昇をし続けた。当初オーバーシュートと思っていたが、プログラムは正常に動作しているのに、電気炉の温度が1700℃を越えたのである。

 

あわててT先生に電話をしたところ、非常停止ボタンを押すように言われた。そこで慌てて非常停止ボタンを押したが、すでに1800℃前後まで電気炉の温度は上がっていた。T先生が実験室に来られたときに、時間がもったいないから、マニュアルで1600℃に保持しよう、と言うことになり、1600℃まで電気炉の温度が下がったところで再度マニュアル運転により15分1600℃で保持した。翌日電気炉のふたを開けたら無機材質研究所の先生方が驚く結果になっていた。

 

この日の実験の特殊な温度パターンで高純度SiC微粉が得られたのだが、その後無機材質研究所で方針が変わり、この研究を完成させることになった。メーカーの技術者による電気炉の点検が最初に実施されたが、暴走した原因は不明であった。ただ心当たりがあったのは、実験がうまく行くように電気炉の前で直立不動のまま手を合わせ、ひたすらお祈りをしていたことである。

 

SiC化の研究を行い分かったことは、ある温度条件で保持してSiC化を行うよりも一度1800℃まで温度を上げた後、1600℃で保持する条件で効率良くSiC化できることである。すなわち電気炉が暴走したときの温度パターンが最良だったのである。

 

32年間研究開発に携わってきたが、このような不思議な体験はたった一度だけである。真摯な努力の威力を実感した。

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2013.05/17 成功する技術開発(22)

弊社の研究開発必勝法プログラムは、お客様のご希望を取り入れ、プログラムを組み立てて研修を行います。研修の対象も担当者から管理職まで幅広くご利用頂けます。

 

弊社の研修で向上するスキルは問題解決力ですが、要求される問題解決力は、階層ごとに異なりますので、研修も階層ごとに異なるプログラムを使用します。本来は、管理職以下全員の受講が好ましいですが、管理職だけ、あるいは実務担当者だけ、というご希望にも対応いたします。

 

弊社の研修は単なる問題解決法の研修ではありません。実務で遭遇する問題は、単なる受験参考書の問題を解く様な感覚では本当の解決ができないからです。また、問題を解くことができてもそれが実行されなければ、実務の問題を解決できたことになりません。

 

また、科学の問題解決は、科学的知識の動員で解決できますが、技術の問題は、科学的知識を動員しても解決できない場合があります。この点を理解されていない方が多いですが、弊社の問題解決法では技術の問題の解決も可能とします。

 

科学の問題解決では、科学的知識や情報が世間に存在しない場合は、科学的に成立しない、として解が得られ問題解決されますが、技術の問題では、目標とする機能を実現する方法について探索しなければなりません。実はこの技術を探索する方法について学校教育では教えていません。現場で技術とともに伝承されている無形の方法です。弊社ではそれを「見える化」しております。

 

技術の問題解決法としてオブジェクト指向に類似しているTRIZやUSITが注目されていますが、弊社の問題解決法のエンジン部分はオブジェクト指向では無くエージェント指向に分類されます。TRIZやUSITのような難解な手続きの問題解決法ではありません。科学的な問題解決法として知られているTRIZやUSITの導入でつまづいた経験のあるお客様は是非弊社へお声をかけてください。

 

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2013.05/16 成功する技術開発(21)

カーボンロッドとSiC単結晶を組み合わせ、それをカーボンが分散したフェノール樹脂でいぐるみ、1000℃で炭化処理後石英ガラスにArガスとともに封入した状態でゴニオヘッドに取り付けた。レーザーでSiC単結晶を加熱しながら四軸回折計で計測を行ったところ、SiCが分解を始める2000℃まで線膨張の様子を観察できた。その結果は、以前この蘭でも紹介したが6HSiCに異方性があることを示すデータが得られた。

 

このデータが得られたとき、無機材質研究所へ留学してからすでに6ケ月経過していた。本社人事部から電話を受け取り、その内容からI先生が1週間の猶予をくださり、高純度SiCが生まれた状況もすでに紹介した。

 

高純度SiCの技術が生まれ、ゴム会社がその技術に2億4千万円の先行投資を行って、半導体事業が住友金属工業とJVとして立ち上がるまで8年という月日が過ぎるのだが、その背景にある経営陣の努力は重要であった。

 

すなわち、研究部門では支持されていなかった企画を、経営陣が育て上げたのである。研究部門では、ファイセラミックスフィーバーの中で、消極的な企画提案しか無かった。積極的に半導体事業を立ち上げるという夢のような提案は、主任研究員レベルでブロックされていた状況だった。8年間のデスバレーを歩いていたときも、さらには転職せざるを得ない事件まで起きたのも、研究開発現場ではいわゆる抵抗勢力の意見の方が強かった。しかし、資金面も含め経営陣の暖かい支援が企画立案時からあったのである。

 

CIを導入し、社名からタイヤを取り除き、「メカトロニクス」と「電池」、「ファインセラミックス」の3分野を明確に示しエレクトロニクスへの進出を全社方針に掲げ、研究所に埋もれようとしていたSiC半導体事業を経営陣は引っ張り上げたのである。

 

研究所内で高純度SiCの事業に対しては否定的であった。8年間周囲から大小の妨害も受けたが、JVとして立ち上がるまで、資金面も含め経営陣から精神的な支えとなるような有形無形の支援を受けた。FDへのいたずらが起きたときに考えたのは、その支援にどのように応えるのか、であった。他社とのJVが立ち上がり、半導体冶工具の開発方向も決まり特許出願も済ませた。おそらく周囲は事業としての成功が見えたのだろうと思った。いろいろな想いが去来し、仕事に未練があっても自分が会社を辞めることが最良の道であると判断した。その結果、事業は30年経った今も続いている。

 

この高純度SiCの事業で最も重要な役割をしたのは経営陣の新規事業を育てようとする意志である。その強い意志は、当時担当者の立場で充分に理解できた。NHKで放映された「日本の先端技術」という録画番組を何度も社内で放映したこともその一例である。宮崎緑のファンになった人もいたようだが、ファインセラミックスフィーバーを伝える意図があったことは明確である。しかし、研究部門は大きく動かなかった。高純度SiCの企画も主任研究員の段階で止まっていた。しかし、その企画は50周年記念論文への応募という形で、経営陣に届けられた。

 

大企業で経営陣と事業部門の意見が分かれた場合、企業統治が機能していない会社では、社長方針どおりに事業部門が動かない場合がある。日本ではそのような会社が多いのではないだろうか。企業統治をどのように機能させるかはこの20年様々な書籍が出版されてきたように経営の重要な課題の一つだろう。サラリーマンという生き方、ワークライフバランスなどの考え方も定着し、企業経営に「経営環境の厳しさ」を持ち込みにくい状況である。しかし、イノベーションというものは本来多大なエネルギーが必要で厳しさが必ずつきまとう。楽しくイノベーションできる方法があれば、それは究極のマネジメントかもしれない。厳しさを和らげる一つの提案が、弊社の「研究開発必勝法プログラム」である。本プログラムの導入により、例えば研究開発部門の長時間労働リスクを取り除くことが可能となる。

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2013.05/15 成功する技術開発(20)

ゴールの姿は、カーボンロッドとSiC単結晶とをカーボンで固定している状態です。このゴールイメージができますと、どのようにゴールを達成するのか、という問題を考えることになります。結論は、フェノール樹脂にカーボン粉を分散した流動性のある物質でカーボンロッドとSiC単結晶をいぐるみ、不活性雰囲気下1000℃で熱処理を行えば良いのです。この結論に至る問題解決方法も含め、弊社ではアイデアを出す方法や技術開発を成功させる方法など研究開発業務を改善できるノウハウを指導しています。すなわち弊社の問題解決法は、30年以上現場で実践されてきた手法です。

 

最近「逆から考えると仕事はうまくゆく」という実務書が発売されましたが、この本はただ結論から考えると問題解決は易しい、と述べているだけです。この指摘は、古くから数研出版の大学入試用問題集に書かれていた、「文章題は結論からお迎え」と何ら変わりません。すなわち結論から問題を考える有効性はすでに皆さんご存じのはずです。しかし、それでも研究開発がうまく行かない場合があります。弊社では、この「結論からお迎え」という考え方を有効に使用する方法と、そこから得られた解の一つをどのように展開して研究開発の成功に結びつけるのかを指導いたします。

 

弊社の問題解決法を会得しますと、研究開発のスピードが格段に早くなります。その理由は、技術で研究開発を推進するからです。科学的研究については、技術開発が終了してから必要に応じて行えば良い、という考えです。科学的研究を否定していません。むしろ科学的研究による技術開発のスピード低下をどのように改善するのか、という点を追究しています。

 

長時間労働の禁止やワークライフバランスが叫ばれていますが、まずスピードをあげる手法を身につけてこれらの施策を講じなければ、単なる業務量の削減運動になってしまいます。これでは業績低下を招きます。弊社では、ワークライフバランスを普及させるために、特に効率向上が難しい研究開発部門のスピード改善に注目しました。弊社の手法を身につけ皆が能力アップできれば、わざわざワークライフバランスなど導入せずとも研究者や技術者は自分の生活の質の向上を考えます。

 

<明日へ続く>

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2013.05/14 成功する技術開発(19)

1983年4月から無機材質研究所(現在の物質材料研究機構)へ留学した。担当したテーマはSiC単結晶の線膨張率直接測定。X線四軸回折計のゴニオメーターに取り付けられた6Hや2HのSiC単結晶をレーザーで2000℃まで加熱し、結晶格子の座標系から線膨張率の異方性を直接観察する研究であった。市販されている接着剤の耐熱性が1000℃前後が限界なので、2000℃まで実験することができず、その接着剤を開発しなければならない。

 

科学で考えると大変難しい仕事である。しかし、このような問題は技術で考えると易しくなる。あるべき姿は、SiC単結晶がゴニオメーターに2000℃まで安定に固定されている状態を作り出せば良いのである。ゴニオメーターは金属でできた精密部品である。しかし、カーボンロッドの先に取り付けられた単結晶をレーザーで直接加熱しているので、40℃以上に上がっていない。残る問題はカーボンロッドとSiC単結晶の接合部分である。2H単結晶は1400℃で転移するのでカーボンとの拡散接合という手段が使えない。

 

世の中に存在する接着技術で2000℃までSiC単結晶とカーボンロッドを安定に固定することは不可能であるとすぐにわかった。技術的視点からは、安定に固定する機能をどのように実現するのか、という問題となり接着以外の固定方法を考えることになる。

 

2000℃まで安定な材料はカーボンがある。カーボンでSiC単結晶を包み、それを石英製の透明ガラスに不活性ガスとともに封入すれば技術として完成する。石英製の透明ガラスは、予め豆電球の構造に作っておき、その中にカーボンロッドとSiC単結晶、不活性ガスを封じ込めば良いのでガラス細工で何とかなる。有機合成実験ではガラス細工は必須の技能であったので、成功に至る手順は頭の中に具体的に描かれた。

 

残る問題は、どのようにSiC単結晶をカーボンで包みカーボンロッドに固定するのか、ということである。

 

<明日へ続く>

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2013.05/13 成功する技術開発(18)

無機材質研究所I先生との電話の中で、留学生受け入れ定員がすでにオーバーしていること、またセラミックスを事業としている会社の留学生を優先していることなどを知らされ、現状で専門外の研究者の留学は難しい、と断られた。しかし、2週間後のご講演予定を知らされた。電話でI先生の優しい人柄を感じられたので、2週間後のご講演後の面会に備え、猛勉強をした。また50周年記念論文の内容を高純度SiCの事業に絞りこんだ論文に仕上げた。

 

I先生の講演終了後1時間弱の面談で、専門外の研究者が今無機材質研究所へきても指導できないので留学生は単なるお手伝いとなってしまう現状を説明された。しかし、勉強は独学で進めることと、用意していた高純度SiCのビジョンを熱くプレゼンテーションした。この熱意が伝わり、後日会社の上司と無機材質研究所へ訪問することになった。

 

セラミックスフィーバーの始まる前から、無機材質研究所はファインセラミックス分野で世界の先端を走っていた。取締役と直属上司の3人でI先生を訪ねたところ、無機材質研究所長をご紹介された。研究所長は、以前勤務されていた大阪工業技術試験所時代にブリヂストンタイヤ㈱創業者石橋正二郎氏と親交のあった話をしてくださるとともに、「SiCという材料ならば㈱ブリヂストンが研究するにふさわしい。」、と会社の幹部を前に力強いアドバイスをしてくださった。

 

さらに、SiCという材料はエンジニアリングセラミックスとして注目を集めているが、高純度化できれば半導体分野でも有望な材料となること、そしてその耐熱性ゆえにパワートランジスターの材料として期待されており、将来電気自動車用の電装部品事業に進出できる、と夢のようなお話を語ってくれた。専門外の若者が書いた論文よりも迫力があり、会社の幹部とセラミックスの夢を共有することができた。

 

<明日へ続く>

 

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