活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2012.10/04 必要な知識を短時間で身につけるには

無機材質研究所へ留学するために最初に猪股先生へおかけしました電話では、セラミックスの研究歴が無い点を指摘されました。猪股先生へのこの最初の電話では、2週間後に開催される学会でお会いする約束をしたかったのですが、そこまでたどり着く前に、断られてしまったのです。しかし、失礼とは思いましたが、学会で名刺交換だけでもさせて頂こうと、先生の発表日に学会へ出席し、名刺交換と自分の売り込みをいたしました。

 

2週間という短時間でSiCの専門家に認めて頂けるような知識をどのように身につけたらよいか、1日悩みました。当時のセラミックス関係の有名な専門書は、キンガリー著「セラミックス材料科学入門」でしたが、とても2週間で読み切れるページ数ではありません。最低限でも猪股先生の論文を読んでおこう、と思いまして3編ほど最新論文を集め読んで見ました。

 

3編ともセラミックスの焼結過程を熱力学の観点で論じた論文でした。猪股先生が新しい焼結理論を構築しようとされていることは、緒言を読むと理解でき、従来の理論の問題点も整理されていました。キンガリーの教科書に該当部分が無いか探しましたら、10ページほど古い焼結理論の説明がありました。教科書を読んでいたときには、よく理解できなかったのですが、猪股先生の論文と対比しますと、不思議なことによく分かります。

 

猪股先生の論文と教科書の該当する部分を比較しますと、セラミックスという学問が、相図などの状態変化を扱いつつも、形態学的な観点で研究されてきたのではないか、という疑問がわいてきました。物理化学を少しかじれば、状態変化は熱力学で議論するのが基本ということを理解できます。猪股先生の焼結理論は、実験結果の整理を熱力学で行う姿勢が明快でした。猪股先生とお話するときには、熱力学を十分に理解していることが重要と思いました。

 

セラミックスのプロセシングで重要となる焼結について、その理論が議論されている状況という段階ならば、基礎科学の観点でセラミックスという学問が見直しをされているのではないか、という疑問を持ちました。猪股先生のご専門であるSiCについて、どの程度研究されているのか調べましたら、速度論的研究に大穴を見つけました。SiCはシリカ還元法と呼ばれる方法で製造されますが、気相と固相の両者が関わるために反応機構が複雑になります。反応機構についていろいろと提案されていましたが、固相だけあるいは気相だけで進む反応機構を取り扱った論文はありませんでした。

 

高純度SiCを合成できる高分子前駆体をすでに開発していましたので、この前駆体を用いれば、固相均一反応の取り扱いで速度論を議論できるのではないかと考えました。反応副生成物は、すべてガスですから熱重量分析法でモニタリングできます。熱力学と速度論については学生時代に勉強しましたので、猪股先生の論文を中心に知識の整理をいたしました。不思議なことに、猪股先生の論文を中心にSiCに関わる熱力学や速度論の問題を整理しましたら、セラミックスが分かったような気分になりました。

 

この時の経験で、必要な知識を短時間で身につけるには、一人の研究者の考え方を整理してみるのもコツではないかと思いました。読み古した教科書ならば短時間に復習できますが、真新しい教科書では短時間に知識を身につけることは難しいように思います。しかし、一人の研究者の論文であれば、たとえそれが難解な論文でも、教科書片手に読み進んでゆくとその分野の知識が、教科書よりも短時間で身につくように思います。これは、一人の研究者の論文は、一人の研究者の哲学で一貫しているから知識が頭の中で整理されやすいのではないか、と考えています。

 

高分子材料のツボセミナー」(注)では、この時の経験も取り入れ、高分子材料を実務で扱う時に、とりあえず知識として頭に整理しておきたい事項を教科書とは異なる視点でまとめてみました。2時間前後で知識の整理を行うのに便利なツールをめざし企画しました。

 

(注)クリックして頂きますと、弊社「電脳書店」へジャンプできます。

 

サンプルはこちら(Adobe Flash Player最新版がプラグインされている必要があります)

カテゴリー : 一般

pagetop