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2012.10/09 半導体用高純度SiCの発明

高分子の難燃化技術から生まれた半導体用高純度SiC合成法という技術シーズが画期的な発明であり、CIを導入したブリヂストンの3本の柱(注1)の1本であるファインセラミックス事業の本命テーマになりうるかどうかを証明するために、超高温度熱重量天秤の開発は重要なテーマでした。しかし、無機材質研究所留学前に上司から却下されたテーマです。もし、留学前にこの企画が認められ、研究が進められておれば、半導体用高純度SiC合成法の発明に関する基本特許(参考文献1)は、ブリヂストンから出願されていたはずです。

 

海外留学を無機材質研究所の留学に切り替える調整まで順調に進みましたので、高分子前駆体法によるファインセラミックス合成法を基盤技術にした事業シナリオがブリヂストン研究開発本部で認知されているものと思っていましたが、留学して半年後に、全く評価されていない事が分かりました。それは、留学して3ケ月後に昇進試験(注2)があり、その3ケ月後である10月1日に試験が0点で昇進できない、との連絡が人事部より無機材質研究所に入ったからです。

 

昇進試験の問題は、新事業のシナリオに関する問題が出ることが事前に分かっていましたので、高純度SiCの新合成法を基盤技術として半導体事業を展開するシナリオ(注3)を用意し、試験に臨みました。試験問題は事前に聞いていた問題と同じで、無機材質研究所長から伺いましたパワー半導体用のウェハー開発までのシナリオを解答として書きましたが、それが0点という評価をつけられたわけです(注4)。無機材質研究所の電話で受けました内容は、詳細を本社で説明するので都合のつく時間に出張してくるようにとのことでした。

 

会社からの電話の一部始終を猪股先生は聞かれており、私に同情してくださいました。そして、「1週間だけ猶予をあげるから、自分の“思い”の研究をやってみなさい」と励ましてくださいました。私はすぐにブリヂストン研究開発本部の上司の許可を得てA氏に電話をかけ、仔細を説明し、高分子前駆体を合成するための準備をお願いしました。翌日朝9時から夜の9時まで実験を行い、高純度SiCの原料にできそうな高分子前駆体を10水準合成し、無機材質研究所へ持ち帰りました。実験をやりながら悔し涙が溢れていましたが、泣いている時間はありません。

 

無機材質研究所に戻り、3日間ほとんど徹夜で実験を行いました。猪股先生はじめ周囲の温かい視線に励まされ、無機材質研究所で実験を開始して3日目に黄色に輝くβSiCの粉末が得られました。100%の純度のβSiCが得られた瞬間です。

 

(注1)      電池、メカトロニクス、ファインセラミックス

(注2)      係長級に相当する昇進試験

(注3)      実際には、1990年に住友金属工業㈱小嶋氏と出会う(参考文献2)まで半導体事業の出口が見えず、ファインセラミックスフィーバーの中心であったエンジニアリング分野のマーケティングを行うことになる。

(注4)      高純度SiC新合成法を用いた半導体事業は、日本化学会から化学技術賞をブリヂストンは受賞し、30年経過した現在も事業が継続している。すなわち試験の解答は正解だった。

 

(参考文献1)特開昭60-226406、無機材質研究所から出願された高分子前駆体法によるSiC合成技術に関する基本特許(発明は1983年10月)

(参考文献2)特開平5-24818、半導体用部材開発の住友金属工業との最初の共同出願特許

 

 

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カテゴリー : 電気/電子材料

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