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2013.01/20 弊社の問題解決法について<3>

探偵ホームズの「考える技術」について、もう少し詳しく物語の表現から推理してみます。不評だった第一作「緋色の研究」には、探偵ホームズがやや人間性を欠いた推理の天才で、エキセントリックな人格であるなど主人公に関する説明が多く書かれています。ワトソンとの出会いのシーンでは、「いっしょに暮らすとなればそのまえに、おたがいの短所を十分知りあっていたほうが好都合ですからね」と探偵ホームズからワトソンに語りかけ、お互いの欠点を説明する部分まででてきます。

 

第一作ですから登場人物の説明を読者に詳しくする物語展開を否定しませんが、探偵ホームズが凡人とは全く異なる奇人で、音楽と臭いの強い煙草とコカインを愛し女嫌いであることまで最初に説明が出てくるのは、やや冗長で、このようなことは事件解決の過程で探偵ホームズの動作からわかるようになっていたほうが物語としておもしろいと感じました。第一作も含め彼の事件を推理する動作には、最初に説明された性格がにじみ出ています。

 

しかし、このような冗長性のおかげで、この書を読みますと探偵ホームズの使用していた「考える技術」を理解することができます。例えば「ただ一滴の水より、論理家は大西洋やナイアガラ瀑布など、見たり聞いたりしたことがなくても存在の可能なことを、推定しうるであろう」という探偵ホームズのセリフから、「部分から全体を推理する方法」を会得していたことがわかります。

 

これは、論理学で演繹的推論と呼ばれている「考える技術」を利用しますが、科学の研究分野でよく使われる方法です。例えば「一般的法則pが成立するならば、ある個別法則qが成立する」という表現が推論で、これを順次展開し結論を導き出してゆきます。

 

論理学の推論では、「pならばq」に対して、「qならばp」という表現を「逆」、「pでないならばqでない」という表現を「裏」、そして「qでないならばpでない」という表現を「対偶」と呼んでおります。高校数学で学習しましたように推論の「逆」や「裏」は常に成立するとは限りませんが、「対偶」の関係にある推論はいつも成立します。

 

すなわち「pならばq」を考えてもアイデアが出ない時に、その対偶である「qでないならばpでない」という推論でアイデアをひねり出す「考える技術」は有効でビジネスの問題解決でも使われております。こうした推論の表現と性質について、探偵ホームズが登場した時代には、すでに論理学の世界で解明されていました。

 

また、「だいたい犯罪にはきわめて強い類似性があるから、千の犯罪を詳しく知っていれば、千一番目のものが解決できなかったら不思議なくらいなものだ。」、という表現から、先の推論とは異なる、「全体から部分を推理する方法」も使っているようです。これは個々の情報から一般事象を導き出す帰納的推論と呼ばれる方法で、論理学では演繹的推論と並ぶ代表的な「考える技術」であり、高校数学で数学的帰納法として学びます。

 

数学的帰納法では、n=1で成立することの確認から始まり、ある自然数kと自然数k+1で成立することを示し、すべての自然数で成立する、と結論を導いてゆきます。しかし、実際の現場ですべてについて成立することなど示せませんから、結論が蓋然的になる可能性があり「考える技術」として問題解決に使用する時には注意が必要です。

 

帰納的推論は、ソクラテスの時代から存在していた「考える技術」のようですが、数学的帰納法のように、その推論の展開でいつも完全に成立性が保証されているわけではありません。それゆえ長い間論理学の分野で議論が続けられていたようで、フランシス・ベーコンが現れ、帰納的推論を論理学の一手法として確立したのは16世紀のことです。

 

その後も改良が加えられ、帰納―演繹―検証の三段階からなる演繹的方法が19世紀のジョン・スチャート・ミルにより伝統的演繹推理を補強する形式で実現されます。すなわち、帰納の代わりに仮説を入れた、仮説―演繹―検証からなる「仮説法」が考案され、伝統的論理学が「考える技術」の体系としてこの頃完成します。

 

驚いたことに、探偵ホームズは、現代の科学でも使用されている伝統的論理学が完成した当時の成果を「考える技術」として駆使していたことになります。先に説明しましたが、短編のほとんどの物語は、「ベーカー街における問題設定、情報収集と分析、犯人が解明され、最後の説明」という構造になっており、この毎回同じ構造の美しさとその中で探偵ホームズが科学的に体系化された論理学を駆使して推理を展開する魅力で、探偵ホームズの物語が成り立っていることはこれまで指摘されてきました。

 

(明日へ続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

問題は「結論」から考えろ!

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