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2013.01/21 弊社の問題解決法について<4>

「欧米探偵小説のナラトロジー」でも「シャーロック・ホームズの推論の大部分は、厳密な科学の外見をもっているだけである。推理によって、彼は敵手のみか読者をも催眠させる。彼の推理の魅力は、この催眠の魔力なのだ」とべた褒めです。ところが、「僕は消去法によって、この結論を得たのであって、これ以外の仮説ではどうしても事実と符合しない。」、と述べている部分も「緋色の研究」にあり、科学的ではない消去法という手法も使用していると公言しています。消去法は、○×のテストで正解が分からない時に使用するおなじみの方法ですが、用意された事象の中に正解があることを前提にする推論なので科学の世界では非科学的方法と言われています。

 

探偵ホームズが使用していた非科学的な「考える技術」はこれだけではありません。短編集「シャーロック・ホームズの冒険」に収められている「ブナ屋敷」には「僕は七通りだけ説明のつけかたを考えた。七つとも、いまわかっているだけの事実とは矛盾しないのだ。そのうちのどれがあたっているかは、これから先方へ行って新しい事実を聴取してからでないとわからない。」と、七つも仮説を考えて、新しい情報が入ったら正しい仮説を選択する姿勢を見せています。この場合は消去法でなくとも、新しい情報を加えた演繹的推論で正しい仮説を選ぶぐらいのことは探偵ホームズの能力があればできます。この後、依頼人ヴァイオレット・ハンターから新しい情報を聞くと、「ありがとう。ところでこの不思議な話をここで一応研究してみましょう。むろんこれにはたった一つしか可能な説明はありません。」と仮説を一つに絞り込んでいます。

 

この前後にはどのように七つの仮説から一つに絞り込んだのか書かれていませんが、この「ブナ屋敷」における仮説設定からその絞込みの過程における文章の行間を推理しますと、複数の仮説を考える時に便利な「考える技術」の一つ、思考実験を使っている可能性があります。思考実験とはニュートンが始めたと言われている頭の中で推論を展開する方法で、アイデアについて頭の中でシミュレーションを行う非科学的な「考える技術」の一つです。

 

探偵ホームズが思考実験を使っていたかどうかは、「ブナ屋敷」と同じ短編集に収められている「ボヘミアの醜聞」に描かれた次のシーンからも推理できます。 玄関からホームズの部屋まであがってくる途中の階段の段数をいつも見ているワトソンが、階段の段数が十七段であると答えられないことに対して、「そうだろうさ。心で見ないからだ。眼で見るだけなら、ずいぶん見ているんだがねえ。僕は十七段あると、ちゃんとしってる。それは僕がこの眼で見て、そして心で見ているからだ」と探偵ホームズはワトソンを諭しています。

 

探偵ホームズの活用していた「考える技術」をこのように推理してみますと、探偵ホームズは科学的論理だけを忠実に用いて推理を行う奇人ではなく、非科学的と言われている消去法や思考実験までも「考える技術」として使いこなし、事件の推理を行っていた柔軟な頭脳の持ち主で、エキセントリックにふるまっていたのは探偵としてのカリスマ性を演出するためではなかったのかと想像したくなります。

 

探偵ホームズの「考える技術」は、これだけではありません。探偵ホームズについては頭脳明晰な理論派と表現され、やや二枚目半的な紳士としてこれまで映画やテレビドラマなどで表現されることが多いですが、「考える技術」の使いこなし方の視点で見ますと、むしろ現場観察重視の泥臭い一面と人並み外れた鋭い観察眼のある、加齢臭よりも煙草臭の強い職人的オヤジのイメージが浮かび上がります。

 

例えば「赤髪組合」には、ワトソンがホームズと一緒に依頼人の話を聞き、現場観察をおこなったあとのぼやきで、「私としては、彼とおなじく話を聞き、おなじだけのものを見ているのに、ホームズがすでに過去の事実はもとより、今後いかに事件が進展してゆくかについても、明らかな洞察を下しているらしい口ぶりをもらしている」と述べています。

 

これは、ワトソンがベーカー街の事務所で待合わせるとの指示を受け、探偵ホームズは事件解決の段取りを一人で行うために人ごみの中へ消えていった時のワトソンの独り言ですが、相棒のワトソンをほったらかしにして、問題解決の仕上げを一人で楽しみながら行うところは、長年の蓄積された経験で身に着けた知識と知恵を活用する職人的オヤジの姿そのものです。職人的オヤジにとりまして強力な「考える技術」は、豊富な経験から得た知識と知恵を用いて頭の中でシミュレーションを行う思考実験です。

 

(明日へ続く)

 

 

 

 

 

問題は「結論」から考えろ!

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