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2013.01/22 弊社の問題解決法について<5>

刑事コロンボのドラマの展開は典型的な倒叙探偵小説と同様で、最初の場面で犯人と犯人周辺の生活が丁寧に描かれ、犯人と被害者の人間関係及び犯行の動機などすべてが視聴者に提示されます。そして殺人事件が起きますが、殺害方法や現場の状況など一般の探偵小説では推理して明らかにする答に相当する部分まで、視聴者はすべて見ることになります。ここまでが短いドラマになっていますので、その後の展開における視聴者の興味は、もはや犯人にはなく、どのように刑事コロンボが捜査を進め犯人に迫り、逮捕に至るのかという点に集中することになります。

 

視聴者は刑事コロンボの事件捜査におけるアクションに注目していますが、すでに事件の結末を知っていますので、あたかも結末の位置から結末につながる刑事コロンボのアクションを推理するような視点になります。一般の探偵小説ならば、物語の進展に伴い探偵もしくはワトソンのような語り手から結末へ向かう方向に視点は動いてゆきますが、刑事コロンボにおける視点の動きは全く逆になります。これが一般の探偵小説と異なる面白さを生み出す秘密になっています。

 

面白さの秘密と関係している推論の向きとその性質について少し説明します。一般に行われる仮説から結論あるいは原因から結果へ向かう推論を前向きの推論と言い、これに対し結論や結果から推論を展開する場合には逆向きの推論(後ろ向きの推論と呼ぶ場合もある)と言います。この推論の向きの違いは、問題を考える時の見通しのよさと関係するので重要です。

 

すなわち逆向きの推論を行う場合には、結論へつながる推論の道筋を結論から考えていますので結論に至る道筋が明確です。しかし、前向きの推論を展開する場合には、推論の展開を始めた段階では結論につながるかどうかわからないので見通しが悪く複数の道筋を考えることになり、解決策については、その中から最良の推論を選ぶことになります。

 

この前の節で引用しましたが、探偵ホームズが「ブナ屋敷」で最初に七つの仮説を推論し、その後依頼人の情報を基に一つに絞り込むような手順が前向きの推論による解決策の選び方です。この時、思考実験を用いて推論を検討する方法が、非科学的ではありますがアイデアが出る「考える技術」として知られています。すなわち思考実験を通常行う時には前向きの推論を使い頭の中で結論に向けて推論を展開してゆきます。

 

この推論の向きと物語の面白さとの関係は、主人公の役職にまで影響を与えます。

 

すなわち、一般の探偵小説で謎を解く主人公は、探偵や民間人の場合がほとんどです。そして探偵という職業は警察組織に属さないので社会的拘束から解き放たれています。それが事件解決のための幅広い情報収集を可能にしていますが、多くの情報が提示された結果、読者に謎解きの視点の幅を広げて考えなければならない事柄を増加させるので、推理を難しくする効果を出すことができます。

 

一方、コロンボは探偵ではなく刑事なので、捜査する時には常に社会的規範や捜査組織の制約を受けることになります。それが犯人逮捕という結末に直接つながるアクションの推理に難しさを加えます。すなわち、コロンボが探偵ならば自由に取ることができるアクションを複数考えることができますが、警察組織に属する人間としての制約を受けることにより尋常なアイデアでは結末にたどり着けない状況も生まれ、知的ゲームとしての娯楽性を高めています。すなわち、「犯人は誰か」という結論を求めるような探偵小説の面白さの手法を使えませんので、探偵小説とは異なる技巧を凝らさない限り、推理小説としての興味は半減します。その技巧も何でもありではなく、法律という制約を設けることにより、考える領域に制限が加わり推理の難しさが増加します。ゆえにコロンボは探偵ではなく刑事でなければなりません。

 

第一回の「殺人処方箋」では、犯人の愛人によく似た女性の自殺シーンを見せ、犯人に愛人が自殺したような錯覚をさせています。おとり捜査に似たようなところもありますが、この刑事でなければできないトリックにひっかかり、錯覚した犯人は墓穴を掘ります。

 

「指輪の傷跡」では、刑事の立場を利用して、死者のコンタクトレンズが証拠品という嘘の情報を犯人に流します。それを聞いた犯人は、慌てて車の修理工場へ忍び込み、自分の車のトランクの中を探していて、その場で不法侵入の罪で逮捕されます。そしてその場の行動が殺人事件の犯人という唯一の証拠だ、と迫り、犯人の自白を引き出します。犯人の車が都合よく修理工場へ運ばれた理由も含め皆合理的な説明シーンが展開され、それらは刑事コロンボが刑事という立場を利用して合法的に仕組んだものでした。

 

「指輪の傷跡」も含め、犯人に重要な証拠情報を流し、犯人の証拠隠滅を図る行動を利用して犯人逮捕に結びつけるパターンを刑事コロンボはよく使います。これは、「そんな大事な情報を流して大丈夫か」と視聴者に思わせる効果もあり、刑事という役職を活用した情報操作までがドラマの面白さを盛り上げています。刑事コロンボでは、結論である犯人とルールに則り接触することができる刑事という役職も面白さの大切な要素となっています。

 

(明日へ続く)

 

 

 

 

 

問題は「結論」から考えろ!

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