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2013.03/19 ポリマーのコストダウン

30年以上前寝具用ポリウレタンの開発を担当した。ポリウレタンは当時kg単価が500円以上したエンプラの仲間である。処方に依存しkgあたりのコストは100円前後変動する。この材料を発泡体にして寝具に応用していた。

 

すでに当時コスト競争になりかけており、高級ブランドを立ち上げても収益が増えない構造になっていた。高級寝具用ポリウレタンはややずっしり感ががあり重い。すなわち発泡密度が高いのである。発泡密度を下げればコストダウンできるのだが、このずっしりとした高級感を出せない。

 

そこで無機フィラーを添加し、重量感を持たせる開発を行った。無機フィラーはkg単価が安い、タルクや炭酸カルシウムが検討された。炭酸カルシウムは最も安価な無機フィラーでkg単価は40円-30円程度であった。タルクはそれより少し高い程度。ポリマーの比重は1より少し大きい程度だが無機フィラーの比重は、3前後の材料が多い。

 

kg単価が500円以上のポリマーに1/10以下の価格の無機フィラーを添加するので確実にコストダウンできる。さらに無機フィラーの比重が高いので、発泡倍率を上げることができ、さらにポリマーの使用量を低減できるので大幅なコストダウンが可能である。

 

しかしうまい話にはリスクがつきもので、この安価なフィラーを使用した発泡体のコストダウンはどこの会社も成功していなかった。一般にフィラーをポリマーに添加すると弾性率が上がるが脆くなる。すなわちポリウレタン発泡体がちぎれやすくなるのだ。フィラーを単純に添加しただけでは、5wt%の添加でも発泡体の引張強度は半分程度に低下した。

 

当時ポリマーに無機フィラーを添加したときの靱性の低下メカニズムは研究が盛んに行われていた時代で、社内には世間よりも数年先のデータが蓄積されていた。ゆえにこの無機フィラー添加による靱性改良の方向は分かっていた。すなわち無機フィラーの粒径を数μm未満にすることと凝集を防ぐことである。前者は分級技術で容易に対応出来るが、後者が難しい。粒径が小さくなると凝集力が増すために分散が難しくなるのだ。

 

分散を上げるには界面活性剤、というのが微粒子分散材料の定石で界面活性剤の探索が唯一の手段になるのだが、発泡体の場合にはセル(空隙)の制御のために界面活性剤を用いるので話がややこしくなる。異なる目的の界面活性剤の併用は技術的難易度が急激に高くなる。添加剤を技術手段として選択できない場合にはプロセシングが最後の手段になる。当時知られていたプロセシングをすべて試したがカオス混合以外に良好な分散手段は無かった。カオス混合の量産技術は当時無かった。

 

なんやかやと苦労しながら技術手段を探し、結局界面活性剤の合わせ技を多変量解析で見つけポリウレタン発泡体のコストダウンに成功した。可能性が有るならば、技術的難易度が高いからといって逃げるより果敢にチャレンジしたほうが解決は早かった。

カテゴリー : 高分子

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