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2013.03/21 加熱系の設計

30年程前にレーザー加熱による熱天秤を発明した。セラミックスフィーバーの嵐が吹き荒れている時代に、世界で初めてポリエチルシリケートとフェノール樹脂を用いて有機無機ハイブリッドの合成に成功し、その応用分野としてSiC前駆体を考えていたからである。もし無機高分子と有機高分子が分子レベルで均一に混合されていたならば、反応速度論でSiC化の反応を議論できるはずである、という仮説を考えた。この仮説を実証するためにはSiC化の反応が生じる1600℃まで短時間に加熱可能な熱天秤が必要であった。

 

当時赤外線イメージ炉による急速加熱天秤が存在したが、加熱範囲が広いために、天秤を構成する材料の耐熱性の問題を抱えており、加熱できる上限は1500℃だった。サンプルだけ2000℃まで加熱できる熱源があれば、当時商品化されていた急速加熱天秤をそのまま使用できる、と考えた。YAGレーザーとその天秤を組み合わせ実験を行ったところ、30秒以内に2000℃まで昇温できることが確認された。しかし、YAGレーザーが照射されている部分では、炭素の昇華が生じていることが分かった。重量減少が起きていたのである。

 

YAGレーザーの直接加熱では、加熱部分が高温度になりすぎるので試料セルの近くに炭素のブロックを置き、その炭素を加熱して試料を温めることにした。しかし単純にブロックをYAGレーザーで加熱する方法は、ヒーターで加熱する方法と差異が無く試料の温度がなかなか高くならない。

 

炭素のブロックの形状を試行錯誤で工夫してみたら、YAGレーザーの同じエネルギーレベルで試料の温度が大きく変化する現象を見いだした。難しい現象では無く、熱伝導も光と同じで直進する、という事実を見落としていただけである。炭素のブロック形状を工夫し、間接的に試料加熱する方法で2000℃まで30秒以内に昇温できることがわかった。

 

直接加熱と間接加熱で昇温速度が同じかというと実際には差があるのだが、センサーの検知速度が遅いだけである。すなわち室温から2000℃までセンサーの温度が上がるのが30秒近くかかっていることが熱容量の計算からわかった。

 

試行錯誤ではあったが何とか2000℃まで30秒以内に昇温可能な熱天秤ができたのでSiCの反応速度を解析したところ均一素反応としての取り扱いが可能で、反応機構と完全に一致する測定値が得られた。すなわちSiCの前駆体は分子レベルの均一性を達成していたのである。超微粒子シリカなどを添加すると気相反応が生じ均一素反応から外れることも観察された。

 

この熱天秤の加熱系の経験は他の分野にも生かせる。例えば電子写真(レーザープリンター)の定着系は急速加熱ができれば使用時に通電することが可能となり省エネにつながる。現在のシステムは急速加熱が難しいのであらかじめ温めなければならない。定着ベルトをヒーターとする面状発熱体の考え方もあるが、この天秤の加熱方法と同様のベルトを間接的に急速加熱するアイデアも使えるのではないか。そのときに重要となるのは、熱天秤で工夫した内容である。

カテゴリー : 電気/電子材料

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