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2013.04/04 光学材料としてのポリオレフィン

20年以上前に光学材料としてポリカーボネートやポリアクリロニトリルが着目された。しかし、いずれも複屈折が大きいため、CD-ROMやDVDーROM、ブルーレイといったデバイス、ピックアップレンズ用の材料には不向きであった。現在レンズ材料として多く用いられているのは、ゼオネックスやアペルと呼ばれている材料である。10年以上前にこれらの材料を1年ほど扱い、その材料設計思想の稚拙さにあきれた。一部の公的機関の研究者もご存じの内容をもとにこの分野の材料開発がまだ必要である点を述べる。

 

ゼオネックスやアペルは、主鎖がポリエチレンと同じようなC-C結合でつながったポリオレフィンとよばれるポリマーの側鎖に大きな基をぶら下げた構造をしている。ちなみにレンズ材料用ゼオネックスはポリスチレンを水素化して合成する。すなわちゼオネックスの場合には、ポリスチレンの性質を一部ひきついだポリマーである。レンズ材料用ゼオネックスの主鎖はエチレンと同じで、側鎖基には6員環がぶら下がった構造をしている。

 

ポリマーの実用的な耐熱性はガラス転移点に制限をうける。このガラス転移点は主鎖の分子運動性とも関係する。ちなみにポリエチレンのガラス転移点は最も低い測定値で-110℃という値が報告されている。一般のポリエチレンをDSCで測定した場合に観察されるのは-20℃前後の値である。ガラス転移点という物性値で注意しなければならないのは、このように同じポリエチレンでも高い測定値がえられたり低い測定値がえられたりする点である。ポリエチレンは特殊な部類だが、ポリマーはその製造履歴によりガラス転移点がばらつくものである。

 

そもそも無機材料で観察されたガラス転移という現象をポリマーにそのまま適用したので多くの技術者の誤解を生んでいる。このポリエチレンのガラス転移を調べれば、物性値としてその気持ちの悪さに気がつき、耐熱性についてこのパラメーターを頼りにする危うさに驚くはずである。ポリエチレンのような単純な構造のポリマーのガラス転移点がこのような状況である。その構造に大きな側鎖基をぶら下げれば、大きな側鎖基が分子運動性を規制し耐熱性があがる、と考えるのはポリマーの物性を甘く見た考え方である。

 

確かにマクロ的には、すなわち構造材料に用いるときには、見かけ上の耐熱性は上がっている。ポリスチレンではガラス転移点は80℃から100℃の間で観察される。多くのカタログでは85℃前後の値が書かれている。そしてポリスチレンの耐熱性は80℃までとされ、ポリスチレン製容器には食洗器に入れないようにと言う注意書きが書かれている。ゼオネックスでは、このポリスチレンのベンゼン環に水素を付加し、より側鎖基どおしがぶつかりやすくし、主鎖の分子運動性を下げ見かけ上のガラス転移点を120℃以上にすることに成功している。

 

しかし、この考え方の問題はミクロ的な領域の分子運動性を忘れている。ゼオネックスを押出成形して様々な熱履歴を与えると80℃前後にガラス転移点をもった材料がえられる。これは面白い、ということで様々な条件で薄膜を作ってみると、カタログには絶対に結晶化しない非晶性高分子と書かれているのに結晶化した薄膜がえられる。なぜブルーレイ用ピックアップレンズにアペルやゼオネックスを当初使うことができなかったのか、この材料を開発した技術者は反省して欲しい。

 

CD-ROMからDVD-ROM,ブルーレイへと変わる過程で光学的耐熱性で考えなければならないドメインの大きさが小さくなっているのである。詳細はここでは書かないが、ポリマーの専門家ならば、すぐに理解できる世界の現象である。現在の光学用樹脂の世界はまだこの程度のレベルの技術である。高分子材料には、まだまだ研究の余地が残っている。固くて歯が立たないセラミックスに比較して取り組みやすいはずである。年寄りにも浮かぶアイデアなので若い人ならばパーフェクトポリマーのアイデアはすぐに出てくるはずである。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

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