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2013.04/22 多変量解析(2)

多変量解析が趣味のようになり業務に使用していた、ある日に、指導社員から、単なる統計で見いだされた因子として整理するだけでなく、材料の構造因子とプロセス因子に分けて、統計因子との関係を整理していったらどうか、とアドバイスを頂いた。指導社員は当時HP製の関数電卓を使用し、粘弾性のシミュレーション計算を手で行っていたほどの技術者である。そのうち何かアドバイスが飛び出す、と思っていたら、材料物性の相関についてご自身が考えているところを語ってくれた。

 

科学的ではないが、と前置きがあり、説明が始まった。高分子材料の物性には高次構造との相関があることが期待されているが、それがきれいに説明つかないので、研究としてうまく進んでいない。ただ、機器分析が急速に進歩してきて、ミニコンとの連携でかなり細かい解析ができるようになって、プロセス因子の複雑な関わりが見えてきたところだ。

 

例えば、引張強度が弾性率と靱性の関数で表現できるとする。弾性率は高次構造の結晶部分の影響を強く受ける。今ここに高次構造が完全にガラス化すると弾性率はかなり低くなる材料があるとする。その材料を用いて少しずつ結晶化度を上げてゆくと結晶化度との相関性が表れるが、あるところからその相関性が崩れる。結晶化部分のクラスターがプロセスで変化するためと考えられるが、プロセスで除去しきれない欠陥の影響が弾性率の上昇とともに大きくなると思われる。靱性は線形破壊力学から弾性率の関数として表現されているので、引張強度は弾性率の1因子関数として整理できて良いはずだが、ここは線形破壊力学が少し怪しいと考えて、独立因子として扱っておいた方が安全だ。

 

とご自身の経験から材料物性の強い相関性の世界について話してくれた。そして多変量解析による物性の見方は、かつて研究所内で意見が出たが、コストと成果の関係から見送られた課題だ、とも。またある年代以上の化学屋はコンピューターアレルギーが多く、そのうえコンピューターの値段が高いので、シミュレーション業務に対し見方が厳しい、と風土の問題を話してくれた。さらに強引に自分流で仕事を進めている現状は好ましく無いとクギを刺された。高いマイコンを自費で買った状態だから皆黙って見ているが内心はどうか分からないから、仕事のやり方も少しずつ是正した方が良い、と。

 

メンターとしても優れていた人で、良い勉強になった。指導社員は、定時になるとさっさと囲碁を始めたり、また行動もどこか斜に構えているところも感じられたが、組織人としてのツボを心得ていた。指導の仕方も絶妙で、ただ仕事のやり方を注意するのではなく、強相関ソフトマテリアルの概念につながるようなアドバイスと組み合わせて部下の向上心を促しながら辛口の指導をする優れたスキルを持ち合わせていた。このような指導社員と長く仕事ができたなら、と憧れたが、新入社員でありながら3ケ月で異動することになり、これが最後のアドバイスとなった。

カテゴリー : 高分子

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