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2013.05/05 成功する技術開発(12)

本来中断すべき判断が正しい、と思われる状況でもその判断が出されず、研究開発が続けられる場合がある。いろいろな原因がそこにはあるが、技術内容の共有化という作業が難しいこともその一つである。

 

例えばポリマー電池だから軽量化でき、将来の電気自動車用二次電池として有望といって学会賞を受賞後、研究企画を行った受賞者が転職した事例が存在する。その後二次電池は比重ではなくエネルギー密度が重要とわかり、ポリマー電池では勝ち残れないとの判断で事業は中断された。学会賞目的に事業として難しい企画をプレゼンテーションスキルの悪用で提案してくる輩もいるのである。技術開発を中断するのか進めるのかは、容易に判断できるケースばかりではない。

 

企画担当者が科学的なウソで固めた企画を提案してきたときには、ウソを見破らない限り正しい経営判断を出せない。ウソとまでいかなくとも都合の良いデータだけで説明する輩もいる。本来企画担当や実際に研究開発を担当している人は経営者のことも配慮して研究開発を推進すべきであるが、理想とかけ離れた現実が稀にある。

 

ゴム会社で半導体用高純度SiCを開発したときに一人で苦しくとも死の谷を歩き続けたのは先行投資をしてくださった経営陣の期待に応えるためであった。このような真摯な姿勢は必ず後継者にも伝わる。その結果30年事業が続き、技術の基本となるアイデアを実現し事業立ち上げまで行った企画担当者がメンバーに入っていない学会賞の受賞例も存在する。しかしいつでもこのような真摯な姿勢の企画担当者ばかりではないのである。

 

科学的に考えると中断しなければならない状況でも開発が続けられている時にどうするのか。このような状況では技術で開発をやり遂げる道を担当者は必死で考えなければならない。6ナイロン樹脂の6をとった一般のナイロン樹脂を使うという技術的発想が認められなければ、例えば他の技術手段である6ナイロン樹脂と他のナイロン樹脂との併用を承認してもらえるように目指すのである。この時、6ナイロン単独系での検討も進めるが、併用系も了解して欲しい、と検討会議で提案すれば”NO”という判断は出ない。製品化を半年後に控えて成功確率の高い技術手段を選ぶ、という選択を有能な経営者であれば誰でもする。

 

6ナイロンを使用した時に6ケ月後成功する場合と失敗する場合の2つのケースを示し、失敗するケースについてナイロン樹脂を同時に添加した系で成功に導く、と説明すれば製品化間近なのでその意見に反対する経営者はいないはずだ。

 

この後、研究開発の進め方は真摯な担当者とそうでない担当者に分かれる。科学的視点から6ナイロン単独系ではうまく行かない、と思われるので実験計画から外す、という考え方は不誠実である。たとえ6ナイロンと絶縁体樹脂に相溶しうるナイロン樹脂との併用系の検討が科学的見地から成功への近道と分かっていても、6ナイロンでもうまくいく技術の可能性を現場の担当者は最後まで真剣に考えなければならない。それが企業の技術者としての義務である。科学的にだめだ、と思われても技術の可能性を真摯に追求しなければいけない。ただし熱力学的に完全に不可能と判断が出されている永久機関のようなテーマはこの限りではない。しかしすでに説明したように世の中の科学的理論の中には怪しいものが存在するので技術者は科学的理論の正しさを実務の中で検証してゆくという姿勢をとる必要がある。

 

ワークライフバランスなどの考え方やサービス残業に対する批判から労働者の時間管理が厳しくなっているが、テーマ検討会議で検討課題にあげた以上可能性が低いと思われても最大限の努力をするのである。時にはヤミ実験も必要になる。

 

ナイロン樹脂併用系を認められた以上失敗の可能性は無くなったのだから、6ナイロン単独系の技術開発はだめでもともとと、大胆なアクションをとることが可能である。製品化半年前に技術的な“博打”を打っても良いようなチャンスが生まれた。また、最初に”モノ”を作り成功する道筋も用意できているので挑戦的なアイデアを失敗しても製品化計画への影響は無い。技術の挑戦をするのは今しかない、という状況を作り出す研究開発マネジメントは、新しい技術を生み出したいときに有効である。

 

<明日へ続く>

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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