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2013.05/08 成功する技術開発(15)

福島原発の事例を考えてみる。津波は想定できなかったので天災である、とする見方は正しいだろうか。海辺に建設された原発で津波の被害ゼロはありえない。万が一のことまで考えて安全対策をとるのが原発建設で重要なはずである。津波が起こりうることまで考え、防波堤を築いたならば、その”防波堤の効果が無かった時の対策”まで考えなければならない。その対策が講じられて初めて万全な津波対策になるのではないか。

 

津波を想定していたから防波堤を作ったはずである。津波の高さはあらゆる地震を想定して決められなければならない。科学的な発生確率ではなく、想定される地震の規模の上限が大切である。これまで世界で発生した地震の最大規模でどれだけの津波になるのか分からないが、そのような時に発生した津波に備えておれば今回の事故は起きなかった。

 

一度事故が発生すれば取り返しのつかないことになるのが原発事故の特徴である。化学工場の爆発とは異なる、ということを考えて対策をとらなければならなかったはずだ。原発では事故発生確率0が目標と言われている。さらに福島原発では津波対策だけでなく、その後事故を大きくしたお粗末な問題が存在する。例えば、全電源喪失という事態となり、電源車を集めたところコネクターが合わず緊急事態に対応出来なかったとか、内部を観察するセンサー装置のコードが外れていたとか、信じられない凡ミスが報道されている。

 

外部電源を取り入れる準備ができていながら、コネクターが合わず機能しなかった、という問題で責任が問われないのは不思議である。津波の事故に限らず、全電源喪失という事象を考えたからこそ外部電源取り入れの準備をしていたのである。しかし、そのコネクターが合わなかった問題は、人為的ミスなので必ず責任が問われなければいけない。事故を大きくした原因は全電源喪失にあるとした見方がある。その視点に立てば電源車のコネクター問題は大きな問題のはずである。

 

福島原発の事故で誰も責任をとらないとしたならば、国民は政治不信となるであろう。少なくとも被害に遭われた方々は納得しない。防波堤の高さだけでなく、被害を大きくした人為的ミスも幾つか報道された。一方でこれだけの大事故を一人の責任者で責任が負えるのか、という意見も出てきている。

 

もしも、を考えてみても福島原発の問題は解決しないが、もしも電源車のコネクター問題が無かったならば大きな事故にならなかった、という仮説をあえて考えてみる。すると現場の技術者のモラールの問題が見えてくる。もし現場の技術者のモラールが高かったならば外部電源のコネクターの重要性をよく考え、あらゆるコネクターと互換性をとれる設備を提案していただろう。現在までかかった費用を考えるならば、あらゆるコネクターを用意する費用は大した金額ではない。過去の実績ではそのための費用は1万円以下であった。

 

かつて高純度SiCのパイロットプラントを建設したときに、高電圧電源のコネクターが複数存在するだけでなく呼び方も複雑であることが建設途中でわかった。すでに設備を発注した後で、あわてて仕様の再確認を装置メーカーへお願いした。それでも万が一に備え、高電圧のコンセントに適合するあらゆるコネクターを一組準備した。現場の担当者の発案である。そしてその準備は無駄にならなかった。再確認まで行っていたので装置メーカーがお客のために準備していてもよいケースであるが、某メーカーの納入された装置についてお客の準備したコネクターが役立ったのである。それは最も大きな設備であったので、お客の立場を主張し当日コネクター準備をお願いしていたら工期が1日延びた可能性があった。想定されることにすべて備えるのは成功する技術開発で大切なことである。科学的に発生確率が低いから準備をしない、というのは技術開発では許されない。準備不要が許されるのは、科学的に発生確率が0の場合だけである。

 

<明日へ続く>

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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