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2013.05/22 成功する技術開発(27)

半導体用高純度SiCについて学会発表当時はデータも少なく、学位論文を辛うじてまとめられる程度であった。学位論文には、新前駆体を用いたSiCの反応機構について研究結果をまとめたが、日本化学会での発表が妥当であったか悩むところである。S教授から散々のコメントを頂いたが、おかげで研究に対する理解と当時の研究動向の最前線について情報が得られた。

 

無機高分子研究会に所属し学会活動をしていたが、SiC前駆体高分子に関する情報を当時の文献や学会から得ることができなかった。特許にも、フェノール樹脂とシリカの組み合わせあるいはカーボンとポリエチルシリケートとの組み合わせが公開されたばかりで、フェノール樹脂とポリエチルシリケートとの組み合わせについて存在しなかった。

 

そもそもフェノール樹脂とポリエチルシリケートとはフローリーハギンズ理論から相溶しない組み合わせと思われており、この組み合わせで均一になる、というのは驚くべきことなのである。また当時この組み合わせを実験する、ということはフローリーハギンズ理論をよく理解していない、と評価されたのである。S先生のコメントにもそのような見解が入っていた。S先生は当時RIMで実用化されていたリアクティブブレンド技術をご存じなかった。単なる低分子の重合反応という認識であった。χの大きな高分子の組み合わせでリアクティブブレンドが進行するというのは学術の世界ではタブーのようであった。

 

新前駆体を用いた高純度SiCの合成反応は学術の視点から散々な評価であったが、技術としてはまっとうなコンセプトで開発された。すなわちχが大きく均一安定化が難しいので、リアクティブブレンドで安定化させようと反応触媒に視点を置き開発したのである。学会発表でもそのコンセプトをプレゼンテーションしたが、そもそも均一に混ざらない系で触媒を検討する発想を理解できない、とこき下ろされた。

 

S教授のところからその後ππ相互作用を活用した無機高分子の研究などが公開されてくるのだが、技術が学術よりも先行するとこのような事態になる。しかし、このような状況だから春季年会に企業研究者の出席が少なくなってきた、ということをアカデミアの方は気がついているのであろうか。1970年代石油化学が隆盛を誇っていたとき企業研究者の学会参加が多かった、と聞いている。技術と学術が切磋琢磨した時代の話である。

 

学会で技術発表をしづらい雰囲気ができ、企業も技術の成果を機密扱いにして学会発表を控えるようになった。これでは学会に企業研究者の参加が少なくなって当たり前である。ATPの企画で企業参加が少し増加したが、かつての技術と学術が切磋琢磨した状況とは少し異なっている。新しい技術を生み出すために学術が必要かどうかは、人類の歴史を見れば明らかで、学術など無くとも人間の営みとして技術は生まれるのである。しかし、技術の発展するスピードに学術の果たす重要な役割がある。研究のネタを技術の中に探索するアカデミアの姿勢が必要な理由である。1970年代にはそれがあった、と故石井教授から学んだ記憶がある。

 

研究とは新しいことを見つけ出す活動、と故小竹先生は言われたが、この活動は企業の技術者も楽しんでおり、アカデミアだけに許された活動では無いのである。アカデミアがどうあるべきかを論じる立場では無いので、お願いという表現になるが、開発された技術の中に存在する真理を拾い上げそれを人類資産として明確にする活動をできないでしょうか。もしそのような視点の研究発表が学会に増えれば企業研究者は自然に学会参加するようになる。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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