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2013.05/24 難燃性樹脂のリサイクル

LOI21以下の汎用樹脂は燃えやすく、電気製品や自動車部品に用いるときには必要に応じて難燃剤を添加し難燃性樹脂として使用している。難燃性樹脂を混練するときに混練温度の管理は重要である。

 

高分子に含まれる炭素原子と炭素原子、あるいは炭素原子と水素原子との単結合は、280℃以上の高温度になると切断しやすくなる。ポリオレフィン樹脂の熱安定性を熱天秤で確認すると300℃前後まで安定に見えるが、混練時には剪断力も働くので高分子の種類あるいは混練条件によっては280℃以下の温度でも原子間の結合の切断は生じる。また高分子はヒモのような構造なので剪断力を大きくかければ150℃以下でも切断する場合がある。

 

難燃剤の場合にはもっと深刻な問題がある。難燃剤には炭素原子と炭素原子の結合よりも弱い結合が含まれている場合がある。例えばハロゲン原子を含んだ難燃剤の場合には、180℃前後の温度でハロゲン原子が遊離する。ハロゲン原子はラジカルとして発生するので他の物質に再結合する場合もあるが、熱天秤の観察結果では、多くのハロゲン系難燃剤でこの温度近くにおいてハロゲンが遊離する。ある種の難燃剤では150℃以下でも環境条件によってハロゲンが遊離する。

 

樹脂の難燃化機構では樹脂の分解温度近くで分解する難燃剤が理想的と40年以上昔から経験的に知られていた。ただ、熱分解し空気中で効果を発揮する難燃剤の場合には低温度で分解しても効果が発揮されていることが確認されている。ハロゲンと酸化アンチモンの組み合わせ型難燃剤は、空気中でハロゲン化アンチモンを生成し、燃焼中の樹脂表面に滞留して空気の遮蔽効果が発揮され燃焼を止めると言われている。この機構であれば低温度で熱分解してもアンチモンとの反応条件さえ整うと難燃効果を発揮する。しかし難燃剤の開発の歴史を見ると難燃剤の分解温度を高めることは一つの重要な技術課題であった。現在でも280℃以上の温度まで安定な難燃剤は少ない。

 

非ハロゲン系難燃剤は環境問題の関心が高まるとともに重要な研究課題となり、リン酸エステル系難燃剤にも非ハロゲン系の難燃剤が品揃えされるようになった。その中には280℃以上の温度でも安定な難燃剤が存在する。しかしこのような耐熱性の高い難燃剤が使用されている例は少なく多くの場合は、250℃前後から難燃剤は分解する、と考えて対応した方がよい。すなわち混練温度が250℃以上になると難燃剤の分解を心配しなければいけない、と大雑把に考えてよい。ハロゲン系難燃剤の中には150℃前後でも分解する物質があるが、難燃剤メーカーに混練条件を提示した場合にはそのような低温度で分解する難燃剤は供給されない。

 

このように考えると難燃剤を添加した難燃性樹脂の混練は剪断力の効果も考慮すると250℃以下で行うことが望ましい。使用する難燃剤の熱分析データを見て混練条件を考えるべきであるが、そのように行われないケースを見てきた。大手の樹脂メーカーの技術サービスの話を聞くとびっくりするような混練条件の決め方をしている場合もある。熱分析データは熱天秤とDSCの両者を見るべきだが、一度も熱分析データなど見たことが無い、というケースも存在する。そのようなメーカーの樹脂は安くても購入しない方がよい。

 

最初の段階で混練条件が悪ければ、そのリサイクル樹脂についてはどのような温度条件を設定しても難燃剤が熱分解した樹脂となる。しかし難燃剤が樹脂内部で分解していても難燃性能に大きな影響が出ない場合がほとんどである。だから難燃剤の耐熱性に無頓着な樹脂メーカーも存在するのだろう。ただし力学物性や絶縁性に影響が出る問題は深刻である。難燃性樹脂のリサイクルでは樹脂の耐久性に注意する必要がある。

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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