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2013.06/06 科学と技術(タグチメソッド1)

田口玄一先生がお亡くなりになって1年になる。酸化スズゾルを用いた写真用フィルムの帯電防止層開発のテーマでは、70歳を過ぎた田口先生から直接御指導を受ける幸運な機会が2年ほどあった。酸化スズゾル技術を含め4テーマ御指導頂いたのだが、結構準備が大変であった。

 

コンサルティング時の苦労話をしても仕方がないのだが、毎回こちらのテーマを正しく理解して頂いているのか、という不安があった。しかし、タグチメソッドでは基本機能さえ正しく把握できれば細かい科学の話などどうでもよいのである。毎回の不安が、タグチメソッドの本質を理解するのに大変役立った。

 

タグチメソッドは「田口メソッド」と書いてはいけない。なぜなら米国からの輸入品だからである、という田口先生のジョークは面白かった。田口先生がアメリカでご活躍されていた頃、日本では日本科学技術連盟(日科技連)の推進する品質管理工学がもてはやされていた。

 

1979年にゴム会社に入社したとき、新入社員は全員日科技連の品質管理ベーシックコースを受講させられた。受講料一人50万円のコースである。おかげで統計学を基礎から理解することができた(お金の力はスゴイ。但し費用は無事終了したときに会社が支払ってくれる)。

 

日科技連の品質管理におけるばらつきの概念は、科学統計学のそれと同じである。すなわちばらつきは「偶然誤差」として扱う(注1)。技術開発において日科技連の統計手法を活用するとまずこの矛盾に遭遇する。しかし統計学では、それを矛盾とするのではなく、誤差が均等になるように実験計画を組め、としている。例えばさいころを振って実験順序を決めたり、あみだくじで実験順序を決めたりする説明がまじめに教科書に書かれている。

 

このあたりの胡散臭さは、実験計画法を使い込むと気がつく。実験計画法でうまく実験を行っても、最良の条件が外れる場合が出てくるのである。だから確認実験を行うようにテキストには書かれているが、なぜ外れるのかについては説明されていない。社内の講師に質問しようものなら、それは実験計画が悪い、と一言で片付けられてしまう。

 

コンセプトを決めて技術開発を行うスタイル(注2)だったので、実験計画を工夫してもうまく行かない場合が多かった。高分子発泡体の難燃化技術開発を担当していたときに積極的に実験計画法を使っていたのだが、よく外れて、その度に周囲から笑われた。他の人はどうしているのか、と覗くと、実験計画法など誰も使っていない。実験計画法が外れる事を知っているので皆一因子実験である。せっかく新入社員の研修で50万円も払って身につけたのだからと意地になって使っていたら、面白いアイデアが浮かんだ。

 

実験計画法の因子を割り付けるときに、外側にも因子を割り付け、外側に割り付けた因子で相関係数を求め、相関係数で実験計画法を行うのである。面白いほど最適値(いつも物性の最大値を最適値にしていた)を決める実験がうまく行くようになった。タグチメソッドなど知らなかったが、偶然タグチメソッドでいうところの感度を最大にする条件を求める実験方法を思いついたのだ。

 

このような体験があったので、タグチメソッドの解説を面白いほど素直に理解できた。そもそも技術開発の実験の世界で現れる誤差は、偶然誤差ではなく必然誤差と呼べる性質の誤差である。田口先生のご講演でSN比の説明を聞いたとき目から鱗状態で、感度の説明がされたときには仰天した。「私は田口先生と同じことを考えていたのかもしれない!」

 

<明日に続く>

(注1)福島原発は海岸沿いにあるにも関わらず、防波堤の高さを科学的な確率で決めたという。女川原発では、津波の経験から少しでも高台に、と考えて建設されたという。両者は同じように津波に襲われたが、福島の状況を見ると科学的確率で決める問題が浮き彫りになる。タグチメソッドではSN比で経済計算まで行う。もし原子力技術をSN比を用いてリスク計算あるいは事故が起きたときの損失を計算したならばものすごい数値になるであろう。地震国日本で原発を運転するときの覚悟とはお金を準備することと、日本に住めなくなる場合を理解することである。

(注2)弊社の問題解決法でもコンセプトに基づく実験を取り入れています。実験はタグチメソッドで行うことが基本です。

カテゴリー : 一般 高分子

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