活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2013.06/30 科学と技術(混練13)

昨日高分子シミュレーターOCTAに触れたが、混練プロセスでどのようなポリマーブレンドができるのかを知りたいときにSUSHIは、科学的な視点から解答を示してくれる。これは役にたつシミュレーターである。すなわち科学的な解答が目標とする機能を達成できない材料の場合に、あきらめるべきか、目標とする材料を技術で作り上げるべきか判断するときのよりどころとなる。

 

真理を追究するのが科学ならば、機能を実現するのが技術である。一方哲学者イムレラカトシュによれば科学は否定証明を完璧にできるが、肯定証明は苦手とする。すなわちある真実が実験で示されたのならば、昨日までのある現象を肯定していた理論がひっくり返る可能性があるのが科学の世界である。

 

そのため、学生時代に指導してくださったI先生は研究者の科学における研究の意味を書いた小竹先生の随筆のコピーをもとに実験の重要性をことあるごとに教えてくださった。すなわち研究とは「etwas news」を見つけることで、新しい事実を見いだすために毎日実験を繰り返すのが研究者の仕事である、と。

 

OCTAは、土井先生によれば、高分子物理の成果が詰め込まれたシミュレーターだそうである。例えば高分子物理に疎い技術者でもOCTAを使って実験を行えば、高分子物理の科学的成果について検証ができるのである。すなわちコンピューター上で高分子物理の実験ができるのである。

 

三井化学のアペルというポリオレフィン樹脂を10年以上前に扱うチャンスがあった。アペルは、側鎖に提灯のようなバルキーな基がぶら下がっている光学用樹脂で、このバルキーな基で主鎖の分子運動性を落としTgを高くするように設計された樹脂である。この樹脂については苦い思い出とここで紹介する楽しい思い出がある。絶対実現できない、と技術的に分かっていても、その技術内容を科学的に証明をすることができないときに、周囲はそれを理解しない場合がある。そのような中で、少しでも可能性のある方向をOCTAで探ったのである。

 

アペルは、提灯のような側鎖基で分子運動性を低めTgを高くしている樹脂であるが、もともとポリオレフィンという材料はTgが低い。ゆえにこの樹脂の耐久性の指標としてTgを採用するのは危険である。実際に、その時担当していたテーマでは、Tgから期待される耐久性を実現できるかどうかがカギであった。

 

ある混練の「技」を使った実験で、カタログに示されたTgよりも低いTgがこの樹脂には存在し、この低いTgで樹脂の耐久寿命が決まっていることを示したのだが、材料メーカーの研究者に一笑にふされ、その実験結果は採用されなかった。

 

この実験結果による予測は正しいと2年後分かるのだが、当時少しでも改善に寄与しようということで、提灯のような側鎖基を動きにくくするような高分子をブレンドする実験をOCTAで行った。ある構造のポリスチレンが良さそうだ、ということで、D社にお願いして、様々な重合条件でポリスチレンを重合し、一次構造が異なるポリスチレンを創り出した。

 

このポリスチレンを片っ端からアペルにブレンドし、透明になるポリスチレンを探したところ16個目の実験で、アペルと混ぜても透明になるポリスチレンが見つかった。そしてこのポリスチレンを混ぜたアペルは期待されたとおり、そのアペルのTg付近まで透明で、低いTgが無くなった。

 

ところが、ポリスチレンが複屈折の原因となるのでプロジェクトからは価値の無い無駄な実験とされたが、ポリオレフィンとポリスチレンが安定に相溶する場合があるという、フローリーハギンズの理論の不完全性を示す実験として価値がある実験結果が得られた。

カテゴリー : 一般 高分子

pagetop