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2013.07/12 科学と技術(静電気8)

昨日静電気に関わる現象を利用した機能を実現するための材料設計法について少し詳しく書いた。しかし、静電気の研究を20年以上続けてきたわけではない。ゴム会社で転職する原因となったお手伝いの仕事の成果が中途半端な形だったので心の中で悶々としていた。そのもやもやとした気持ちを退職前に運良く巡り会った仕事で解消することができ、その一部を昨日簡単にまとめた。

 

技術者にとって新たな自然現象を発見し、その自然現象を利用して機能を実現した技術が中途半端な状態になっているのは気持ちが悪い。さらにせっかく生みだした技術を転職のために埋没させてしまっては企業の社会貢献の視点から好ましくない。技術が社会に活かされるかどうかは、企業だけでなくそれを生み出した技術者にも責任がある。

 

技術者が生み出した技術について社会に役立てるまで、創造主である技術者が伝承の努力をしない限り消えてしまうのが日本の社会の現状である。半導体用高純度SiCの技術はゴム会社と住友金属工業とのJVで世の中に出た。その後ゴム会社は日本化学会賞まで受賞し技術が会社に定着していることを実感した。しかし、お手伝いで創造した3種の粉体の技術については、外部から見ていて消える運命にあった。

 

所詮消えてしまうような技術は大した技術ではない、と評論する人がいる。それも真実だろう。しかし、周囲がその良さを理解しないために消えてしまう技術も多く存在するのだ。「理解できない」のではなく「理解しようとしない」人が多い、ということも技術者は知るべきである。学会賞までも高いプレゼン能力が要求され、学会で伝承すべき優れた技術でも落選する。「話が伝わらないのは、発信者の責任」、とビジネスコミュニケーションで言われるように、理解してもらえるように技術者は努力しなければいけない。

 

技術で生み出される機能には皆関心があるが、機能を実現した技術には、技術者以外は関心を示さないのだ。「行為」を伝承することは難しいのである。特許があるではないか、という人もいる。しかし昨日の文を読みどれだけの方にご理解頂いたか不明だが、「行為」を文章だけで伝承することは難しい。

 

例えば「特公昭35-6616」(以下35特許)という古い公告特許がある。透明金属酸化物を透明導電層として世界で初めて塗布で実現した技術の特許で、出願から30年以上忘れられていた優れた技術である。

 

不思議なことにこの一件だけが透明導電薄膜の技術の歴史の中にポツンと存在する。この特許の後に続くのはITO薄膜を物理蒸着で形成する技術開発である。しかもそれらは35特許を出願した企業以外からで、35特許を出願した企業からはその後しばらく特許出願は無い。特許出願が無かっただけでなく、20年ほど前にはその存在すら社内で忘れられていた。そして技術の痕跡すら無くなっていた。

 

「写真工業と静電気」という社内発行された技術書を会社の図書室の倉庫で20年前に見つけた。埃をかぶり異臭を放っていたので読むのもつらい本であった。今から30年ほど前に書かれたその本には、35特許が出願されてから10年以上帯電防止材として金属酸化物の研究が行われ、弱発電性という新たに発見されたな機能について説明されていた。

 

この機能について科学的な概略の意味を理解して業務の中で機能の一部を再現したが、その他の内容について材料設計として発展させる行為については科学的視点からは残念ながら不明のままだ。これを非科学的な内容と切り捨てることは簡単である。

 

しかし、実際に帯電防止材として絶縁体を分散させた下引き、「恐るべき技術」を採用した商品(今は事業そのものを終了している)が実用化され市場で販売されていた実績がある。そもそも絶縁体の帯電防止材で帯電防止能を発揮していたので現像処理後も帯電防止性能を失わない永久帯電防止技術であった。

 

よく理解できていないが、弱発電性という機能が優れた帯電防止性能を発揮していた事実がある。10年ほど写真フィルムの帯電防止技術の仕事も担当し、弱発電性の理解も少しできたが、この機能を実現した技術者に敬意を表したい。

 

 

カテゴリー : 一般 電気/電子材料 高分子

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