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2013.08/06 科学と技術(14)

32年間研究開発では、SiC合成法発見のような不思議な成功体験を大小いくつも経験した。自然現象には科学で解明できない現象が多いことを思い知らされた。その中でも、SiC合成実験における電気炉の不思議な暴走は、その後ゴム会社から2億4千万円の先行投資がされる事業へつながったので人生で最も大きな不思議体験である。さらにそれが現在でも事業として継続されている。

 

このような成功体験を1度すると切羽詰まった時など神様にお祈りをする習慣がつく。ただ、無信教なので、自分が頼っている神がアラーなのかキリストなのか仏様なのか全く不明で最初に手を合わせたときにいつも戸惑いがあった。突然七福神が現れたり、抽象化された八百万の神にお祈りをしたりもした。

 

そのような習慣で実験を行っていたときに、ある日頭の中に実験で起きる反応の全体像および外乱が生じたときに副反応が発生するすべての様子が絵巻物のように自然に浮かんでいることに気がついた。ニュートンは思考実験で万有引力の発見を行ったと聞いていたので、これが思考実験の効果なのかもしれない、と考えた。

 

技術開発で用いられるタグチメソッドでは、考えられるノイズを調合し、実験計画法を用いて使用可能な制御因子を様々に変え実験を進める。すなわち考える対象のシステムについて一応全ての実験条件を確認する実験を行う(実際には実験計画法による一部実施)わけだが、科学では仮説に基づき一部の実験に絞り一因子実験を行う場合が多い。

 

マッハは思考実験を非科学的と認めつつ弟子のアインシュタインにその方法を指導し、相対性理論の発明に導いている。思考実験は、風が吹けば桶屋が儲かる式に行えば良い、と言われるのだが、全ての実験条件を行う事ができる便利な方法なので、桶屋だけに商売をさせておくのはもったいない。

 

それでは思考実験のストーリーを組み立てるにはどうしたらよいのか、あるいは効果的な思考実験を行うにはどうしたらよいのか、それは弊社の問題解決法を勉強して頂ければわかる。

 

神に祈る行為は人を謙虚に導く。若い人たちの実験を見てきたが、とかく慣れてくると実験で手を抜く場合も出てくるようだ。実験で手を抜いたことが無いのでそのあたりの心理を理解できないが、マジメに実験を行おうとするとどうしても工数が増える。マジメな実験計画とは考えられる全ての条件で実験を行う事(注)だが、現実には不可能である。しかし、この現実には不可能な全ての条件における実験を思考実験は可能にする。思考実験で実験の流れをシミュレーションする効果は神に祈るよりも確実に成果が出る。思考実験の重要性に気がついてから神に祈ることを忘れている。しかし、それでも技術開発には成功している。弊社の問題解決法の効果である。

 

(注)半導体用高純度SiCの前駆体高分子の合成では、エチルシリケートとフェノール樹脂の組み合わせで考えられる全ての反応条件の処方を用意し、すべて実験を行った。32年間に10回近く全ての条件で実際に実験を行った経験がある。唯一他社の方と同様の試みをして運良く16番目の処方で目標の材料が得られたときにはほっとした。それはポリオレフィンとポリスチレンを相容化剤無しで相溶させる実験である。透明の樹脂ができるまで考えられる合成条件全てを実験するつもりでいたが、それを他社の方には伝えていなかった。

カテゴリー : 一般

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