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2013.08/07 科学と技術(15:知財の先行出願)

思考実験の効用として特許戦略における先行出願戦術がある。

これは今後事業戦略として進出しようとする分野の特許を事前に出願する戦術である。特許は公開されるまで1年半かかる。ゆえに事業の準備を始めた段階で出願しておくと事業開始の早い段階で審査請求ができ、事業における知財リスクを回避することができる。特許は技術の権利書で有り、類似技術であれば1日でも出願日の早い企業の権利が優先される。

 

写真業界は知財戦略の進化した事業分野の一つである。例えばかつて写真フィルムという市場は、4社の寡占状態で、そのうち2社が日本に存在した。カメラに至っては、現在大半が日本メーカーである。この業界の知財戦略は古くから激しい火花を散らしており、その歴史は昭和40年代までさかのぼる。重要な技術分野と思われるところは、事業にならないような実施例を使ってでも特許を出願してくるのである。

 

例えば結晶性酸化スズが透明導電体として重要な場合では、結晶性酸化スズと写真フィルムの組み合わせを権利化したい。このようなときに、非晶質酸化スズ+写真フィルムの特許が出願されると、物理蒸着により成膜したITOを実施例にして、結晶性酸化スズ+写真フィルムの組み合わせを対抗出願するのである。物理蒸着では生産性が悪いので写真フィルムの生産技術として事業性はないが、結晶性酸化スズ+写真フィルムという組み合わせを権利化することができる。

 

この組み合わせが権利化されると、結晶性酸化スズを用いた写真フィルムの改良技術は、この特許に抵触することになる。このあたりは特許技術も関係するので実際にはもう少し複雑な問題が存在するが、概略のイメージはこのようである。すなわち、事業で必要な技術に関連する項目をピックアップし、技術開発する前に特許を先行して出願しておくのである。仮に発明要件が不十分で権利化できなくとも公知化できるので、知財リスクを軽減する。

 

事業を進めて行く方向にライバル特許が存在しているのは最悪のシナリオであるから、公知化できれば、他社はその範囲を権利化できないので知財リスクを低減することができる。これが先行出願のメリットである。写真フィルムやカメラ、電子写真の特許の出願状況を調べて頂けば実態を理解できるが、おびただしい数の特許が出願されている。例えば酸化スズを帯電防止材に用いた写真フィルムの特許だけでも昭和35年から2000件近く20世紀に出願されている。これは少ない方である。

 

製品開発では新技術との組み合わせ技術も特許要件になるため、このような状況になるのだが、特許が事業を行うための権利書である側面を理解すると先行出願の重要性を理解できる。すなわち先行出願により、最悪でも技術の公知化を行う事ができ、それにより事業展開における知財リスクを低減できる。

 

この特許の先行出願戦術において思考実験は重要な役目を担うことができる。すなわち思考実験を使うと先行出願したい特許案を明確にすることができ、その実施例までも作り出すことができる。特許がパテントではなくペテントと表現されたりする背景にはこのような特許が多いことを示している。

 

科学は真理を追究することが使命なので、論文の捏造は許されないが、技術は機能を実現するのが使命である点を思い出す必要がある。すなわち機能実現のための技術の権利範囲を確定するために実現されるであろう機能が決まれば特許を出願することができ、さらにこの特許は、機能を実現する技術の権利書という意味において、機能が明確になっておればそれを実現する技術に科学的な間違いが無い限り再現可能なので、捏造とはならないのである。

 

ペテントと表現される人はこのあたりをよく理解されていない。実現できない機能を特許にした場合には本当にペテントになってしまうが、確実に実現できる機能は、豊富な技術開発経験と科学的知識から明確にすることが可能である。また豊富な技術開発経験は機能の実現方法を具体化し、科学的知識に基づく思考実験でその方法を真実に裏付けられた実施例で正しく具体化できる。

 

科学情報は真実しか公知化していないので、機能を実現する方法をサポートすることに使えても、科学情報に技術内容が記述されていなければ、その方法の証拠とできない場合が多い。ここにも科学と技術の違いを見いだすことができる。技術とは機能を実現する行為で有り、科学的知識に裏付けられた行為は再現可能である。行為が実際に行われたかどうかは重要では無く、再現できることこそ重要なのである。ゆえに、思考実験による科学論文は捏造になることがあるが、特許の場合には科学的知識を活用する限り捏造とはならない。

 

思考実験は知財戦略の為にも重要な手段で有り、弊社の問題解決法では、このあたりの指導も豊富な経験を実例として使い行っている。

 

カテゴリー : 一般

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