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2013.08/08 科学と技術(16)

「科学と技術(12)」で書いた電気炉の不思議な暴走は、装置に異常があったわけでは無い。また、温度調節器のプログラムが間違っていたわけでは無く、PIDの設定値も最適な値であった。原因不明のまま30年以上過ぎゴム会社で高純度SiCの事業も何とか継続している。

 

この高純度SiCの開発過程で弊社の問題解決法が完成した。弊社の問題解決法は、幾つかのモジュールがありフルセットですべて使用する必要はない。半分以上のモジュールは当時普及していた日科技連の手法を研究開発向けに改良してできた手法である。K0チャートやK1チャートは新QC7つ道具の一つPDPC図を使いやすく改良したものだ。

 

PDPC図は、実際に使用してみると初めての仕事や経験の浅い仕事では次のアクションを考えるのが難しくて使いにくい。K1チャートでは一つのアクションが成功したときと失敗したときとに機械的にふりわけ、それぞれについてアクションを考える規則にしているので、次のアクションは考えるのでは無く決断する内容を書き出すことになる。そして、アクションがこの成功したときと失敗したときという2つの事象は、それぞれ補集合の関係になっているので、K1チャートができあがったときには、考えられる全てのアクションを書き上げた図となる。

 

K1チャートだけで成功に導けた研究開発がある。酸化第二スズゾルの量産プロセス立ち上げである。酸化第二スズゾルの生産はY社にお願いしたが、そこで生産立ち上げ時にトラブルが発生した。実験室では、四塩化スズを加水分解したときに簡単に酸化スズの沈殿が得られていたのだが、量産プロセスでは、酸化スズがうまく沈殿せず、洗浄ができなくなる事態になった。

 

できあがった量産プロセスの中で変更できる条件は少ない。ただ、実験室の条件が量産プロセスで再現していないだけなので、全ての組み合わせを実施すれば酸化スズの沈殿が得られる条件が見つかるはずである。この場合タグチメソッドは有効であるが、問題はこの規模でそれを行うと確認実験まで終了するために1ケ月以上時間がかかる点である。

 

タグチメソッドが源流で行うと効果的と言われる背景にはこのような理由も関係する。量産時にもタグチメソッドを使用しても良いのだが、設計段階よりも規模が大きくなり費用と時間の点で不利である。そこでK1チャート作成にとりかかった。

 

全ての条件の組み合わせについて、実験室の結果と照合しながら可能性の高い順に並べ、K1チャートを作り上げた。その時のK1チャートでは最適条件が最短3ステップで求まる図ができていた。最悪の場合には80ステップほどの実験を行うことになる。運良く3ステップで最適条件が見つかったのだが、繰り返し再現性を確認してもロバストの高い条件となっていた。

 

競馬の予想に近い方法だが、科学の仮説立案とも似ている。各ステップを決定するために情報を最大限に活用している。重要なのは実験室で観察した現象を改めて見直す作業である。タグチメソッドでも源流の実験結果が川下で再現しないときがある。そのようなときにはK1チャートは有効である。仮に大きなチャートになったとしても、チャート作成に使用された仮説が正しければ最短でゴールを達成できる効率の良い方法である。

 

カテゴリー : 一般 宣伝

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