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2013.09/13 ケミカルアタック

ケミカルアタックは、現象を科学的に説明できるが、その科学的説明でごまかすこともできるので注意が必要である。

 

実際の体験を話すと、ある樹脂メーカーの特定の樹脂でボス部分が壊れやすい、という品質問題が発生した。樹脂メーカーの技術サービスがケミカルアタック説で解説し現場を丸め込んだ。しかし現場の担当者から油を使用していないので納得できない、と相談があった。ペレットを調べたら巣が入ったような状態のペレットが多く見つかった。経験上混練時に温度が高いときなどこのようなペレットができやすくなる。その樹脂には難燃剤が入っていたので、もし混練時にエラーが発生していたらDSCを調べたときに難燃剤の分解による吸熱が幅広く観察されるとの仮説で測定したらそのようなデータが出た。

 

また、巣のはいったペレットだけ集めて引張試験用のサンプルを作り引張試験を行ったところカタログ強度の半分のデータが得られた。明らかに樹脂の異常である。さっそく証拠固めのために射出成形体の強度データやIR,電子顕微鏡写真、熱分析データなどを揃え、樹脂メーカーと議論した。驚いたことに当方の測定データをことごとく科学的説明で否定してきた。例えばDSCについて測定方法が未熟でベースラインの揺らぎが観察されただけだ、と。

 

集められたデータすべてにエラーが観察されたのだが、それぞれのエラーについて科学的に樹脂のエラーでは無く評価法に問題がある、と説明してきたのである。誠意が感じられなかったので、最後にペレットの巣の問題と樹脂生産現場における温度異常を示す証拠写真を見せたら沈黙した。しかし後日この決定的な証拠にもへりくつをつけてきたが、巣のはいったペレットは確かに商品として好ましくないので、その点は改善すると回答してきた。そして巣とボス割れは無関係であるとの結論である。但し無関係を示す科学的データは無い。あるのは当方が巣を集めて作成したテストピースで異常に強度が低下するデータだけである。これすらも巣の入ったペレットだけを集めたデータなので恣意的な実験で科学的では無いと否定してきた。

 

最後まで樹脂メーカーはケミカルアタック説で押し通してきた。実は高分子の技術上の問題を科学的に完璧に説明できる現象は少なく現場で発生するエラーについて改善姿勢が無い限り、この場合のように集めたデータが無駄になることがある。当方も科学的限界を理解しているので、へりくつと解っていても認めざるを得ない。ケミカルアタックというエラーは樹脂の問題になったときに樹脂メーカーが改善姿勢を示さない限り、解析が難しい問題である。ケミカルアタックは油が無ければ発生しないが、油が無かったことを科学的に明らかにするのは難しく、問題解決のためには樹脂メーカーの協力が必要である。そのために誠意のある樹脂メーカーの製品を使う必要がある。成形工場の現場で全く油が無い状態を作り出す、ということは難しい。ゆえに樹脂のエラーとケミカルアタックの分離も樹脂メーカの協力が無い限り困難な問題となる。ちなみに体験談ではペレットの巣が無くなったら問題解決した。

カテゴリー : 一般 高分子

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