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2013.10/26 多変量解析経験談

ゴム会社から写真会社へ転職したときのキャリアは、セラミックスの研究者であった。ゴム会社で住友金属工業との半導体用高純度SiCのJVを立ち上げるまで、炭化物以外に窒化アルミや窒化珪素などの非酸化物系セラミックスの研究開発を推進していた。数年間は一人で担当しており、スタッフ職という位置づけであった。

 

スタッフ職なのでセラミックス以外のテーマの支援も行っており、ゴムを初めとして高分子関係のテーマに接する機会も多かった。ゆえに写真会社で高分子技術を担当すると言っても違和感は無かったが、学位を取得しようとしていたセラミックスに比べると圧倒的に知識が不足していた。そこで役にたったのが、新人時代に50万円の研修で1年間勉強させて頂いた多変量解析を初めとする統計の知識であった。

 

転職先の部署で隘路にはまっているテーマを見つけては、実験データを多変量解析していた。フィルムのスクラッチ試験を主成分分析で解析したときには、スクラッチ試験で傷の付き方が幾つかに分類されることを発見した。担当者に尋ねてもその事実に気がついていなかった。

 

スクラッチ試験器は2台あり、同じサンプルでこの2台の傷の付き方を調べたところ、微妙に異なっている。担当者は誤差範囲だという。その日から、どちらの試験器で試験を行ったのか記録させることにした。すると片方の試験器で傷がつきにくくなっていることが傾向として現れた。1サンプルでは誤差範囲という言い訳はできても、Nが大きくなってくると有意差検定の精度があがる。有意差検定でクロとなれば試験器の差を認めざるを得ない。

 

面白いことに、この機種の差はサンプルの処方設計に依存して大きくなったりしている。単純に試験器のメンテナンスの問題なのだが、針先の形状の違いが振動の差を生み出し処方の差を検知しているのである。これをヒントに動的にスクラッチ試験を行い、薄膜の粘弾性を解析する装置を発明した。クズデータと思われるデータを多変量解析にかけたら新しい技術のヒントが生まれたのである。その上この薄膜粘弾性測定試験器は、新しい技術「写真フィルムのプレッシャ-故障防止技術」を開発するのに活躍した。多変量解析さまさまである。

 

また、酸化スズゾルを用いた帯電防止層の開発のきっかけとなったのは、酸化スズゾルの粒子には導電性が無いと結論づけられたクズデータ群である。このデータ群とイオン導電体による帯電防止層のデータ群をいっしょに重回帰分析にかけた。誤差分析を行ったところ、パーコレーション転移前は、酸化スズゾルに含まれる微粒子の導電性が高いという可能性が出てきた。

 

酸化スズゾルに含まれる粒子の比重が極めて大きいので、体積分率を基準にしたときの添加量の多いところまで検討していなかった問題もあったのだが、酸化スズゾルに含まれる粒子の導電性が良好、という統計データは金星であった。すなわち、否定的結論を出したデータを解析し直したところ有益な見通しが得られた。

 

一連の解析は、当時主流であった16ビットのPC9801を改造した32ビットのマシンで行っていたので1時間もかかっていない。大半がデータをインプットする時間であった。プログラムはLattice Cで作成した自前のソフトウェアーである。当時このCの処理系にはライフボート社から多数のライブラリーが販売されており、統計計算のソフト開発が容易な環境であった。日科技連で受講した研修の復習をするため日曜日にプログラムを作成していた。プログラムを作成したら難しく見えた多変量解析も簡単に見えてきた。

 

多変量解析では因子間に相関が高ければ、必ず何らかの傾向が現れる。それが固有技術の観点から説明できれば良いが、説明のつかないときには注意が必要である。偶然の結果なのか気がついていない因子が存在するのか統計の視点と技術の視点から検証しなければならない。転職して一年間多数のデータを解析してみたが、偶然の相関よりも実験ミスの傾向の方が多かった。測定装置のメンテナンス不足のようにデータが少ない段階で気がつかない実験ミスが転職した職場に多いことを発見した。

カテゴリー : 一般 連載

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