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2014.03/13 小保方さんの学位論文の問題

小保方さんの学位論文は英文で書かれており、数カ所に他の論文のベタコピーが存在する、と発表された。STAP細胞発見の業績評価とこの問題は無関係のはずであるが、STAP細胞発見の業績をおとしめるような扱い方である。

 

まず学位論文の問題から明確にしておく。彼女の学位論文はすでに審査されたものであり、学位論文の責任はその審査委員会にある。確かに他の人の論文を引用しながらその引用先を示さなかったのは盗作と言われても仕方がないだろう。しかしそれを指導しなかった審査委員会のザル審査のほうがもっと問題が大きい。

 

その大学の学位論文には、小保方さんの論文以外にも同様の問題が潜んでいる可能性があり、彼女の論文の問題を大きな問題として扱うならば、その大学の学位論文全てを疑惑の対象として調査しなければならない。彼女の論文だけの問題として終結してはいけない。

 

実は学位論文を作成する場合に英文で作成した方が簡単である。理由はすでに海外に投稿した論文の英文をそのまま利用できるからである。また化合物名はじめカタカナで記載される外国語は日本語にするとミスを犯しやすい。また、論理を展開する場合に日本語よりも英語のほうが扱いやすく、さらに英借文という奥の手がある。

 

ちなみに英借文とは、類似議論を行っている英文を探し、一部自分のテーマで書き直す方法で、単なるコピペと異なり、英語論文の指南書にも示されている方法である。英借文は日本人の英語論文を読むと随所に見つけることが可能である。おそらく英借文に対して日本の学会は寛容なのであろう。

 

ただし同様のことを日本語で行うとまことにかっこ悪い結果になる。スムーズな日本語にならない場合が多い。これは日本語の文法が原因である。そのため、化合物名含め学術用語はカタカナが多い点と英借文が使える手軽さから英文で学位論文を作成した方が容易となる。

 

このような理由で国立T大で学位審査を受けるときに当初英文で学位論文を作成していた。しかし、審査途中で主査の先生が他の私大へ転籍され、代わりの先生が主査になられた。そしてその先生から奨学寄付金の要求をされたのである。ちょうどゴム会社から写真会社へ転職したばかりであり、ゴム会社の研究のために奨学寄付金を転職先から支払うこともできず、また金額も高額であったので国立T大で学位取得をあきらめた。

 

一度は諦めたがすでに論文ができあがっていたので、学生時代の恩師にご相談したら中部大学を紹介してくださった。天下の国立T大の先生の指導で書いていた論文なので、そのまま提出すればすぐに学位を頂けるのか、と思ったら甘かった。すべて日本語で作成するように指導された。英文は盗作の問題を抱え込むので日本語で書くようにというのが理由であった。そのかわり語学能力評価については、英語と第二外国語の両方を試験するので心配しなくて良い、と恐怖のありがたい言葉を頂いた。

 

せっかく書いた自分の英語論文を翻訳する作業と語学試験の対策でその日から地獄の日々となった。日本語の学位論文が完成してからも大変であった。化合物名のカタカナ記述の間違い以外に、句読点の位置、改行および行間の取り方まで細かく指導頂いた。論文提出まで結局1年を費やした。しかし、学位審査料8万円だけで学位を頂けて何かお得な感じがした。きめ細かな指導と難しい試験まで受けて一桁の費用である。おまけに学位授与式はたった一人のために学長始めその大学の学監まで勢揃いの中で行われ感動的であった。

 

その時主査の先生がポロッと言われた言葉が印象的で、「他の大学に負けないような学位論文に仕上げたかったので意地悪に見えたかもしれないが勘弁な―――」。世界初の有機無機ハイブリッドによる高純度SiCの合成やその反応速度論を含む「リン、ホウ素およびケイ素化合物を用いた機能性材料のケミカルプロセシングとその評価」という学位論文は、見知らぬ70名以上の研究者の問い合わせを頂いた。印刷した100冊は知人に配れず大半は見知らぬ方へ配布された。しかし20年以上たってもクレームはきていない。中部大学に感謝している。

 

欠陥博士論文が発見されたときにそれは著者の責任では無く、審査した大学の責任である。著者は指導を受ける立場の人間で、指導を受け認められて晴れて「博士」となるのである。また研究者を指導し育てるためにアカデミアがあるのである。むしろ小保方さんはダメ大学に学位審査をゆだねたために研究者として指導される機会を失った被害者とも言える。

 

 

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