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2014.05/14 フローリー・ハギンズ理論(8)

FH理論は、無理矢理個々の高分子鎖を平面に組み込む、単純な格子理論である。このモデルを実際の現象で表現するならば、高分子がTm以上で完全に溶融し、液相を形成して混ざりあっている状態である。高分子のモノマー単位を一つの格子にそれぞれ当てはめているために、モデルの図を見る限り、ランダムに入っているように見える。

 

実際の溶融した高分子がこのモデルのように一つの格子に一つのモノマー構造を当てはめるようなコンフォメーションをとれるならば、このモデルを使って相溶という現象を熱力学でうまく説明することが可能である。

 

ところが現実の溶融した高分子は分子運動しており、様々なコンフォメーションを取るので、厳密な配置計算は明らかに実現不可能である。すなわち単純な格子モデルを用いたFH理論のような現象が起きないだけでなく、仮にそのような現象が起きたとしても一瞬にモデルとは異なる配置になると予想される。

 

一方で高分子融体についてレオロジーデータでやや怪しいデータに出会うことがある。自分が測定した動粘度よりも高いデータがあるのだ。注意深い研究者ならば、高分子融体が分子鎖一本一本の自由運動で構成されていないのではないかという疑問を持っているので、測定条件を変えて測定を行ったりして間違いに気がつく。

 

高分子の種類によっては、凝集力が強く高分子一本一本に遊離しにくい場合もある。そのような高分子の場合、高分子融体のレオロジー測定では注意が必要である。例えばPPSについて説明すると、測定器にサンプルをセットしTm以上に昇温しただけでは安定した融体の動粘度を測定することができない。サンプルセット後一定時間不連続な歪みをかけて測定器で混練し高分子鎖をほぐしてやらなければうまく測定できない。

 

10年以上前に推進された国研、「高分子の精密制御プロジェクト」の成果で、この10年間に高分子鎖1本のレオロジーデータも多数公開されてきている。高分子鎖一本のデータは、今ようやく得られつつある状態なのだ。あらためてFH理論について大胆なモデルで考え直す研究者が現れても良いと思う。FH理論の改良は実務上大変有益な成果をもたらす。STAP細胞と同等以上のイノベーションを引き起こす可能性がある。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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