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2014.06/12 カオス混合(6)

科学と技術では思考方法や現象の取り扱いが全く異なる。これを車の両輪と言う人もいたが少し違うと思う。科学技術とくっつけて論じる人もいるがおよそ異なる概念をくっつけてミソクソ一緒に語るのにも無理がある。但し宮本武蔵の二刀流のように科学と技術両方のスタイルで現象に対峙することは訓練あるいは適切なツールの使用でできるようになる。

 

当方は科学と技術の思考方法について、コロンボとホームズの事件解決で行う推理方法の違いに似ていると思っている。ゆえにどこかのシーンでコロンボが、わたしゃホームズのような刑事じゃない、というセリフを語っていたが、それは正しい感想だ。コロンボとホームズではその思考スタイルが異なるのだ。このあたりについては www.miragiken.com で説明しているのでそちらを見て頂きたい。

 

現象に対峙するときに科学の接し方と技術の接し方を区別しないとどうなるのか。STAPの騒動では真理を見いだそうとする視点と機能を重視する視点とを区別しないために問題が起きた、とも言える哲学の事件である。渦中のリケジョは科学者ではなくテクニシャンだったのだ。実験ノートから伺われるのはレベルの低い技術者の顔である。レベルの高い科学者かつ技術者でもあるバカンティー教授にこのリケジョがかわいく見えたのは当たり前である。

 

科学者は目の前の現象から真実を探そうとするが、技術者は目の前の現象で機能を確認しようとする。現象を前にしたときに、すでに科学者と技術者は異なる姿勢になっている。科学の世界でリケジョが犯した過ちを正しく理解すると、科学と技術の違いを明確に教育してこなかったアカデミアの責任が見えてくる。

 

批判を恐れずに言えば、科学で世の中全てが動いている、と誤解しているアカデミアの研究者がいる、という問題だ。すなわち技術によって生み出された人工物も存在し、それに含まれる知識まで科学がもたらした、というとんでもない勘違いをしていることだ。科学的ではない思考法で生み出された人工物も多いのだ。

 

だから学会は科学と技術が対等に議論できる場になるべきで、対等の議論ができるようにそれらを明確に区別しなければいけない。もし学会がそのような風土であればSTAP細胞の問題はすぐに是正ができたはずで、論文の内容表現も変わり何も問題が起きなかった。

 

昨日のロール混練の条件を変えて上司の理論に合致する実験結果を導いた指導社員の話(注)は、科学で解明できていない、それゆえ真実がどこにあるのか不明な技術を使い、科学のデータを創り出さなければいけないという科学者から見ればパラドクスのようなものだった。しかし、科学と技術が別物であることを認めればパラドクスでもなく、一つの作業手順であることに気がつく。そこに気がつけば効率的な科学の研究方法や技術開発の手順が見えてくる。弊社の研究開発必勝法はそこに着眼したプログラムだ。www.miragiken.com に一部紹介している。

 

(注)理論に合うように得られた実験データに修正を加える作業を捏造という。しかし、理論に合うデータを得るために、理論に影響を与えない(と思われる)操作手順を変えて理論に一致する実験データを得るのは、捏造ではない。

 

科学では実際にデータが得られている事が重要なのである。科学の新規領域を開拓するときには、科学的な技術が不明なので、しばしばこのような滑稽な手順を見ることができる。本来は、理論を実現できるロバストの高い技術を開発してから科学的研究を進めなくてはいけない。

 

iPS細胞では、iPS細胞を実現できるヤマナカファクターをKKDで見いだし、そして科学的研究を行ったのでノーベル賞受賞へとつながった。NHKの放送で山中博士は特許の都合で公開してこなかった、と言い、消去法による実験をしたことを明かしている。

 

STAP細胞の騒動では、笹井副センター長も確認したようにSTAP現象は存在すると思われる。しかし、技術と科学をミソクソ混ぜたように扱い、さらにミソまでもクソのようなハートマークで表現する実験の進め方をしたのでせっかくの科学的真理が分からなくなってしまったのである。

 

科学では1000に1個でもよいから、誰でもどこでもその手順を踏めば実現できることが重要で、技術では実現すべき機能を明確にしてそのロバストを高めることが要求される。STAP騒動では刺激をどのように与えればよいのか、すなわちSTAP現象を引き起こす技術が分かっていないために、あるいは細胞と外部刺激の関係における基本機能が分かっていないために、作ることができないのだ。

 

iPS細胞発見のように、まずSTAP細胞を作る技術を確立してから科学の研究を始めれば良い。この意味が分からない人はSTAP細胞を創り出すことはできない。

 

よく研究者に「モノ」を作ることはできない、という人がいるが、研究者は一つ一つの現象に潜む真理に目を奪われ、機能を見ようとしないからである。「モノ」を作れないのではなく、基本機能という概念を理解していないのが原因である。タグチメソッドでも基本機能の議論になると激論になる。

 

カテゴリー : 連載 高分子

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