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2014.06/19 カオス混合(10)

PPSへナイロンを相溶させる研究は、単身赴任する2年ほど前に東工大から論文として公開されていた。但しその研究で用いられていたのは4,6ナイロンであり、6ナイロンとは異なっていた。東工大のO先生に6ナイロンも同様の結果になるのか尋ねたところ、4、6ナイロンは相容するが6ナイロンは残念な結果だ、と教えられた。

 

開発を始める前の事前調査で第三者の意見を聞く習慣は毎度のことであったが、開発方向と反する見解が聞けたときにはささやかなイノベーションを期待でき、その様なケースでは成功確率も高かったので、カオス混合は成功する、という感触をつかむことができた。単なるヤマカンではない。東工大の研究論文に基づき、これから開発を行う内容について検証した結論である。検証法等は弊社の研究開発必勝法プログラムの一部ツールを用いる。また、弊社のこのプログラムについては(www.miragiken.com)でも一部その考え方を紹介している。

 

ところで参考にした東工大の研究内容だが、高分子の相溶現象をその場観察できる優れた方法を用いていた。二枚の透明ガラス円盤の間にPPSと4,6ナイロンが混練された材料を挟み、高温度で片側の円盤を回転させて剪断力をかける。このとき中心と外側では剪断速度が異なり、外側で早くなる。これを下側からカメラで観察する。上側からライトをあてれば、相溶し透明になる変化をその場観察できる。

 

この方法によるとPPSと4,6ナイロンでは、300℃で相溶の窓が開く。さらにその温度では、周辺がわずかに透明になるだけだが、310℃になると周辺のかなりの部分が透明になる。すなわち、温度と剪断速度で決まる特定条件でPPSと4,6ナイロンが相溶することをこの研究は示している。そしてこの研究の結論はχが小さいのでこのような変化が起きた、とある。だからχの大きな6ナイロンでは相溶しない、とO先生は答えられたのだ。

 

O先生には悪いが、質問しながらカオス混合のプロセスを開発できる自信が高まった。すでにχの大きな場合でも高分子が相容する現象を見いだしていたからだ。科学の世界ではO先生の意見が正しいが、技術の世界ではχが大きくても相溶できた実績があれば、そのロバストを上げる条件を捜すだけで技術を完成させることが可能である。制御因子が分かっておれば、タグチメソッドで解決できる。

 

O先生との議論をする前に、ある機能を頭に描いていた。この研究の実験におけるガラス円盤と類似の機能である。すなわち狭い平行平面で働く剪断力という機能である。回転する円盤の実験では、間に挟まれた材料から見れば無限に引き延ばされていることになる。無限に引き延ばされながら混練されている、これはカオス混合そのものである。

 

偏芯2円筒を用いた京都大学によるカオス混合のシミュレーションでは、有限空間でカオス混合を実現するために折りたたむ必要があった。しかし、カオス状態を作るのに折りたたむことは必須ではなく、大きく急速に引き延ばしカオス状態にできればよい。

 

東工大の研究では、円盤の運動は等速なので残念ながらカオス状態まで進んでいるかどうか怪しいが、円盤ですりあわせるだけでも混練が進行し透明になる、という事実は、事前に頭に描いていた装置の機能が間違っていないことを示していた。この研究では、円盤の回転速度はモータートルクとの関係で上限が決まっていたが、頭の中の装置では引き延ばす速度を自由に変えることが可能であった。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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