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2014.06/24 カオス混合(14)

押出成形機の最大速度で押し出したベルトの電子顕微鏡写真には、6ナイロン相の島が無く、さらにカーボンクラスターの形状も変化していた。面白い男の大発見である。さっそくTダイを手配して、並行スリットの実験を行った。詳細は省略するが、期待していたデータだけでなく面白い結果もたくさん得られた。単身赴任してからアイデアが行き詰まっていただけに喜びもひとしおであった。

 

分かってしまえば簡単な答でもなかなかそれが見つからない時がある。間隙の狭い並行スリットに樹脂を押し出す実験を行えばすぐに答が得られたわけだが、それが分かっていても、身近に装置がないのでできない、と一度思い込んでしまうと隘路にはまる。その様なときには他人に話してみると良い。この事例のように、他人の頭を借りて自分が陥った隘路を打開するのである。

 

面白い男の素性が分かっておれば素直に相談したが、まだ転職してきたばかりなので、素直に相談しても相談された側が困るのではないかと遠慮していた。しかし、現場で何気なく話したことで一気に解答が得られた。ところが、彼はその答を得ようとして努力したわけでもなく、むしろ上司の話した内容の否定証明を行おうと思って実験して、思わぬ発見をした。彼はセレンディピティーが優れている。

 

ところで、科学において間違った命題の否定証明では予期せぬ結果が出るものである。

 

PPSと6ナイロンはχが大きいので相溶しない。だから成形装置の能力上限で製造したベルトではPPSと6ナイロンは相溶していないだろう、上司の考えを否定するには試作ベルトの結果と装置能力上限のベルトの結果を揃えて報告すれば良い、と彼は考えたのだ。

 

PPSと6ナイロンはχが大きいのでベルト成型の過程では相溶しない、という前提条件が、この否定照明において間違っていたために、予期せぬ結果となりDSCで測定したTgが大きく下がった。そして電子顕微鏡観察で6ナイロンの島が消失しているデータから新たな真実が生まれると同時に機能が明確になり、開発テーマを成功に導くプロセシング技術の設計が完成した。

 

自分一人で思い悩むよりも他人を巻き込んでアイデアを練った方が良いアイデアになる。三人寄れば文殊の知恵とは良い言葉である。今回の場合は犬も歩けば棒にあたる、のほうが良いかもしれない。

 

 

カテゴリー : 連載 高分子

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