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2015.02/13 イノベーション(4)

ゴム会社で行ったイノベーションはまさに技術革新であるが、写真会社では、管理職という立場もあり、部下にどのようにイノベーションを説明したらよいのか悩んだ。悩み続けた20年でもある。

 

その中で、温故知新というフレーズはよく使った。イノベーションとは、破壊的な変革ばかりでなく、穏やかな革新もあるはずだ。新しい価値を生み出すだけでもイノベーションである。温故知新とは、過去の技術成果を見直し、そこへ新たな考え方を結合してイノベーションを引き起こす、あるいは過去の技術を真似つつもそこへ新機軸を盛り込み変革を行う意味で用いていた。

 

転職した最初の成果である酸化第二スズゾルを用いた帯電防止層の技術は、昭和35年の特許、特公昭35-6616にパーコレーション転移の概念を結び付け、誰でもその実施例を再現できるようにしたもので、日本化学工業協会から技術特別賞を受賞している。

 

この昭和35年の特許については、実施例がうまく再現されず、ライバル会社からダメな技術という烙印を押されていた。しかし、特許に記載された酸化第二スズの導電性が推定10の3乗Ω程度であり、これを高分子バインダーに分散しパーコレーション転移を起こせば、安定に10の9乗Ωの透明薄膜を製造することが可能となる。

 

ただし、特許に記載された材料は超微粒子なのでパーコレーション転移を簡単に起こせないのだ。しかし昭和35年の特許ではそれが起きたことになっている。実施例に隠れたある条件を加えると容易に起きるようにできるのだが、その条件が実施されない場合には、帯電防止層として機能しない薄膜となる。シミュレーションでこのようなことを再現した。さらにインピーダンスを用いた評価技術を開発し、この評価技術で製造プロセスを探りながらその条件を見つけ出しイノベーションに成功した。

 

完成した帯電防止層は昭和35年当時の技術であり、何も新しいところは無い。しかし30年近くライバル企業だけでなく特許を出願していた企業でも実現できなかった技術である。技術の伝承の問題が含まれているが、特許が出願された当時はパーコレーション転移の研究が進んでいなかった時代であり、シミュレーション技術や評価技術も当時の科学水準では実施できなかった。

 

日本化学工業協会ではこの点を評価されたが、写真会社では何も評価されなかったイノベーションである。まさに穏やかな変革で、この技術を開発した後、イオン導電性高分子を用いた保護コロイドを開発し、新たな帯電防止層技術を開発している。穏やかではあったが、新たな技術を生み出すことができたので、一つの技術革新ととらえている。

 

 

カテゴリー : 一般

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