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2015.03/23 イノベーション(42)階層別

日本の会社内の組織は、バブル以降簡素化された。しかし、大手企業では経営者層と管理者層、担当者層という3階層程度は残っている。ドラッカーが述べているように経営者層は、日々イノベーションの機会発見に努めなければいけないが、管理者層及び担当者層になると状況が異なってくる。

 

この階層において、時には、イノベーションも含め変化を見つけた時に何もしない、という決断が有効な時があるので難しい。例えば、ゴム会社では電池とメカトロニクス、ファインセラミックスを三本の柱として新規事業に力を入れる、という方針が出された数年後、社長が交代しタイヤ業界ダントツトップを目指す、という方針に変わった。

 

それでも一応新事業開拓を継続する方針も出されていたが、それまで新規事業を担当していた人たちは梯子を外されたようなものだった。まず電池事業が無くなり、メカトロニクスは電気粘性流体が残った。しかしこの事業もやがて無くなり、現在まで続いているのは高純度SiCの事業だけだ。ピュアベータという商品名で半導体冶工具の事業が展開されている。これは、旧住友金属工業小島荘一氏の情熱とご尽力もいただき、当方が転職後無事事業まで育った。

 

当方はJVが立ち上げた時に業務の妨害を受け、事業の将来を考え、ヘッドハンティングの会社から紹介された写真会社へ転職した。ヘッドハンティングの会社からは主にセラミックス関係の企業を紹介されたのがきっかけであったが、当方は、転職の条件としてゴム会社で担当していた業務と全く異なる企業の希望を出した。当方にとってはキャリアを全て捨てるのだから大変な提案だった。しかしゴム会社でも管理職昇進直前であり、写真会社でも管理職という役割だったので、専門を捨てても何とかなると判断した(注)。

 

ゴム会社でピュアベータの事業を立ち上げた時に当方は担当者だったが、この経験から担当者層で大きなイノベーションを起こそうとする時には、経営者層と管理職群のバックアップを充分に受けられる体制であるかどうかを見極めることが重要と考えている。経営者層のバックアップだけでは不十分である。

 

担当者の立場で直接経営者層から激励されるのはうれしいことだが、調子に乗ってしまうと周囲の反感を買う。当時を思い出し、サラリーマンとして未熟だったという反省をしているが、その時の若い年齢で勢いのある時には、なかなか現在の心境になれないのでは、と懸念している。

 

このような若い担当者を叱咤激励できる、誠実で真摯なマネージャークラスが必須である。時には周囲の盾になる必要から、専門能力は不要だが誠実さと真摯さはマネージャーに必須の要件である。イノベーションに躊躇しない経営者層に誠実で真摯な管理職層そしてイノベーションに果敢に挑戦する担当者層が揃った時にイノベーションは成功する確率が高くなる。

 

管理者層ならば経営者層のバックアップがあると鬼に金棒であるが、仮に無い場合でもイノベーションの機会を見出したならイノベーションを実行しなければならない。会社にとって充分な利益が見える状況になれば必ず経営者層のバックアップが得られるからである。管理者層でイノベーションの機会を見つけても経営のバックアップが得られないからと躊躇する人は、今の時代その職責を果たしているとは言えない。

 

ゴム会社で担当者の時に高純度SiCを企画して先行投資を受けた。しかし当時研究所では「駄馬の先走り」と陰口をたたかれていたことも記憶している。そしてイノベーションの機会があっても、何もしないという選択が重要と言っていた人もいた。その人は管理職まで昇進し最後まで勤め上げ退職されたので、サラリーマンとして一応の成功者である。

 

ゴム会社は、管理職に厳しい会社であるが、イノベーションのチャンスを担当者レベルまで作ってくれるという、意欲のある人には働き甲斐のある優良会社である。退職まで勤め上げたかった会社を途中で転職した身からすれば何もしない選択をできた人を一瞬でも羨ましいと思ったこともあり、イノベーションを考える時にサラリーマン人生との兼ね合いで難しいところもあると思っている。しかし、何もしないよりは何かして失敗したほうが、今後の人生にプラスになる、とこれまでの経験から自信を持って言える。そして失敗を防ぐ方法も学ぶことになる。

 

(注)結局ゴム会社で身に着けた専門は、趣味で楽しむことになった。現在の弊社の事業が安定したら書きたい論文のテーマがある。だれも研究していないのが不思議なテーマである。

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