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2015.04/09 実験のやりかた(8)

機能を確認することを優先する実験では、科学の手順こそ唯一の創造の手段と信じている人には無茶苦茶に見える実験でも許される。耐久試験が終わりドロドロになって廃棄されていた電気粘性流体に界面活性剤を添加して機能を確認する実験の話を先日書いたが、この実験は「科学を唯一の哲学」と信じている人には認めがたい実験のはずである。

 

工学博士のリーダーは、その実験手順について、実験そのものがナンセンスと言わずに、実験の結果得られる現象は同じ、すなわちどろどろのままだと決めつけた。今でも記憶に残っている感情的な発言で、その回答の内容にも当時驚いた。すなわち、「科学を唯一の哲学」と認めている人にもかかわらず、廃棄されたサンプルを使用する実験を認めた上で、得られる結果が同じ、と言っていたのである。

 

界面活性剤の機能を理解していると、素人からは多少乱暴な実験に見える、廃棄物を使った実験でも機能確認の実験として意味があることがわかり、さらに様々な耐久試験で不良になった電気粘性流体の粘度を下げるような添加剤であれば、ロバストも高くなるであろうという見通しもできる。これは経験知からくる判断で、実験の上手い人と言うのは経験知から実験手順の妥当性を見通せる人である。

 

この時の経験知はどのようなレベルが要求されるのかは、ヤマナカファクタ発見の時に行われた、24個の遺伝子をすべて細胞に組み込むという乱暴な実験を行った学生の逸話を思い出していただくと解りやすい。山中博士が指示したのではなく恐らく工学部の学生が自分の判断で行ったのだろう。実は、その程度の経験知で十分なのである。

 

大切なことは、新しい機能を迅速に確認したい、という欲求なのだ。それが真理と一致する場合であれば、科学的な実験手順と同様になるのかもしれないけれど、直接真理とは結びつかない場合でも、それを優先して実験を進めることが技術者には求められている。またそれは21世紀の科学をけん引するために、科学者にも必要な姿勢である。

 

但し新しい機能が確認された後は、それを検証して真理を明確に記述することが科学者には求められている。山中博士もあみだくじ式実験でヤマナカファクターの機能を確認後、真理の実証実験結果を発表し、ノーベル賞を受賞されている。但し、それをどのように発見したのかは受賞までブラックボックス化されていた。NHKでは、特許をその理由に挙げていたが本音は異なると想像している。

 

また、放送後出版された著書の中では、「すべての遺伝子の組み合わせを調べていたら、こちらの命が先に無くなってしまう」、と本音を語られている。すなわち確信犯的に機能を確認する実験を優先したのだ。当方の実例では説得力が無くとも、ノーベル賞の実例ならば、この機能を確認する実験手順が新技術を見出すことに優れている点をご理解いただけるのでは?

カテゴリー : 一般

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