活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.07/05 ついでに昨日の続き

昨日高分子自由討論会で頭がすっきりした話を書いた。すっきりしたのはポリカーボネートの問題だけではない。ほかにもいくつかあるが、母校の名古屋大学の先生が発表された3元系の共重合体ブレンドの講演は、先日この欄で紹介したラテックス生産プロセスでひしゃくを使った問題の理解に役だった。

 

今は使用されていないが、30年以上前に開発された写真会社のラテックスAは4元系で奇妙な分子設計だった。勝手な想像だが、3元系ラテックスの混合物ができているのではないか、と疑っていた。

 

20年前当方が担当して開発したラテックスBも少し難しい4元系のラテックスだった。しかし、これは必ず4元系になるようにいろいろと工夫した。過去に開発されたラテックスがあまりにも複雑であり、自分が担当したからには、と意気込んだが、特許を回避しようとしていたら結局4元系の複雑なラテックスになってしまった。

 

ラテックスAの製造釜を覗くと、表面に光が当たった時にいつもきれいな模様が観察される。ゴム会社に勤務していたときに出席した塗料のセミナーで人間の目はナノオーダーまで見ている、という話を聞いた。実際にナノオーダーが見えているのかというとそうではなく、ナノオーダーレベルの構造を変化させたときに表面の模様の変化として人間の目が認識するという意味だ。

 

ラテックスAでは偶然結晶構造のラテックスが一部できていたのかもしれない。名大の先生の講演は開会直後の最初の講演でまだ眠くなるような位置づけではないが、難解でありさらに技術としてどのような応用が考えられるのか分からない科学の講演だった。しかし、一つの真理を示しており、その真理のおかげで、ひしゃくを使った思い出が居眠りをしている頭の中に描かれた。

 

昨今では技術として応用できない研究を軽視する風潮があるが、自然界の新しい真理を生み出す科学の研究は実用性が無くても重要である。なぜなら技術は自然界の現象から人間に有用な機能を取り出し活用する行為であり、自然界の理解が不可欠だからである。

 

技術では、必要であれば科学で理解できていない現象から取り出された機能でも使わなければいけない状況もある。そのような状況における技術開発では新たな科学が生み出される可能性があるのだが、ラテックスAの事例から分かるように、たいていはほったらかしになっているのが現実である。

 

そして開発した担当者が行方不明になれば、技術は単なる行為として伝承されるがその意味が不明のためノウハウとして生かされなくなる。以前科学と技術で書いたが、技術を正しく効率よく伝承するためにはその科学的理解が大切である。そのために真理を導き出してさえいれば、科学の研究はそれだけでも価値がある、というとらえ方はいつの時代でも必要ではないか。

 

ひしゃくの使用回数を5回とした昔の技術者が直感で優れた人物と感じたのは間違っていなかった。ラテックスAでは、ラテックスBよりも規則正しい構造ができる可能性が極めて高い。ラテックスBよりもラテックスAでは必然的に捨て材が多かったはずだ。

 

(補足)ラテックスの合成を経験されていない方にはさっぱり分からない内容かも知れない。またその経験のある方でも4元系などの複雑怪奇な系を合成されていない方には馬鹿な話に見えるのかもしれない。技術開発で組み立てられ機能を発揮しているシステムの中には、その機能がなぜ発揮されているのか不明の技術が製品に使用されている例、として読んでいただければありがたい。当方は半導体用高純度SiCの技術を開発後、このような技術について科学で説明できることと説明できないことを分類しながら技術開発を行ってきたが、材料技術には科学で説明できないことが大変多いことにびっくりしている。最後に担当した電子写真システムは帯電現象を情報の書き込みに利用している。すべての部品を単純化したシステムではそのメカニズムの説明に成功しているが、実際に使用されている部品は複合材料であり、その帯電現象は複雑怪奇である。例えば当方の開発に成功した中間転写ベルト(PPS/ナイロン/カーボンの設計は前任者。当方はプロセシング設計と立ち上げを担当)は、押出成形で製造されているにもかかわらず、キャスト成膜で製造されるPI並以上の性能を発揮している。なぜ性能が良いのか不明である。科学で未解明な現象から機能を取り出し利用するという行為は、科学成立以前、すなわちニュートンが生まれる前の時代に人間が営みとして行っていたヒューマンプロセスである。弊社ではこのヒューマンプロセスの見直しを行っている。

カテゴリー : 電気/電子材料 高分子

pagetop