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2015.08/02 未だ科学は発展途上(12)

数日にわたり、酸化スズゾルを用いた帯電防止技術の開発体験を書いた。伝えたいことは、未だ科学は発展途上にあるが、技術開発では科学で解明されていない現象も使わなければいけない、という現実と、科学で未解明の現象が多い問題を科学的に解こうとすると否定証明に陥る問題である。

 

まず後者については、酸化スズの事例だけでなく電気粘性流体の事例でも以前紹介したが、仮説を立てて行った実験で仮説どおりにならなかった場合に、否定証明が科学的に簡単なため、せっかくの実験結果を否定証明の道具に使ってしまう人が多い。仮説が外れた場合に、科学で解明されていない現象を扱っていることを忘れている。仮説の正しさを確認できるのは、扱っている現象がすべて科学で解明されているときだけである。

 

少なくとも仮説に取り込んでいる内容だけでも、すべて科学で真理が確認されていなければ仮説で検証される結論の真理は保障されない。酸化スズゾルの問題について、この材料そのものの科学的に完璧な解明が当時なされていなかった。高純度酸化スズ結晶についてはセラミックスフィーバーのさなかに科学的解明がなされ、アンチモンやインジウムをドープした結晶材料の導電機構などがはじめて明らかにされた。しかし、それ以前から結晶性酸化スズを用いた透明導電体に関するおびただしい数の特許が出願されている。これらの特許は科学が未解明の時代の文献と言う理由で、技術として成立していても科学的に正しいとはいえない。実際に結晶性酸化スズだから導電性である、と誤った事実が書かれている。

 

転職した会社でT社の酸化スズゾルの検討を行い、レポートを書いた担当者は優秀な研究者だった。ただ酸化スズゾルに含まれる粒子の導電性について、それを抽出して評価する手段をとらず、バインダーに分散し導電性の評価を行い、そこから結論を導いており、科学的ゆえに発生するミスをしている。弊社が提唱するヒューマンプロセスではこの場合には冗長性を重視する。非科学的だろうが技術的に考えられる方法すべてについて計測することを勧めている。

 

試行錯誤という方法でも計画的に行えば、この冗長性を確保することが可能になる。仮説を立てて実験を行うのは科学の時代の常識であるが、この冗長性を時として非科学的ゆえにバカにする人がいる。ドラッカーの表現を借りれば、優秀な人ほど成果を出す方法を知らない、となる。実務では科学的な正しさよりも成果が最優先になる。いくら科学的に優れた論文を書くことができても成果を出せなければ優秀ではないのである。

 

カテゴリー : 一般

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