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2015.08/11 未だ科学は発展途上(21)

技術の知恵の構造体が明確になっていると、アイデアを具体化しやすいばかりでなく、その実体を作り出す方法も見えてくる。もしその機能を創りだすために代用できる道具が身近にあるならば、それを活用して実体を作り出せばよい。この時その道具の本来備えている機能と全く異なる場合もあるが、代用できれば何でも良い。
 
新しい非科学的アイデアであるPPSと6ナイロンを相溶させるカオス混合で必要な機能は、急速に引き延ばし、すばやく折りたたむプロセスである。また6ナイロンをPPSに相溶後それを急冷しなければ相分離が始まる可能性がある(注1)ので、混練後急冷するプロセスが必要になる。
 
詳細な説明は省略するが、身近にあったベルト押出成形機がそれらの機能を備えていた(注2)。不完全な部分は「急速に」という点だけだった。実験用の押出機にはトルクと回転速度の大きなモーターが運良くついていたので、外部のコンパウンドメーカーの製造したペレットを押出機の能力限界を超えた速度で押し出してみた。サイジングダイには水を流し、押し出されたクチャクチャのベルトをそれで急冷した。
 
10kgほど強引に押出し、粉砕器でそれらを粉砕した。電子顕微鏡写真を見てびっくりした。6ナイロンの島は狙い通り無くなり、カーボンのソフト凝集体がうまくできていたのである。
 
一応その高次構造ができることを期待した実験ではあるが、あまりにも期待通りの高次構造が一発でできたので、そのような場合には、心の準備ができていてもやはり驚く。これは、30歳の時に無機材質研究所で初めて高純度SiCを合成できた時と同様の感動した驚きである。いくつになってもこのような感動は心地よい興奮を伴い天に上るような不思議な気持ちとなる。ましてや今回は30年近く温めてきたアイデアである。そのアイデアを試すチャンスが不運の処遇で訪れただけでなくその実現にも成功したのである。
 
理想通りのコンパウンドができたので、翌日それでベルトを成形してみた。周方向の電気特性を測定し、こんどは思わず涙が出てきた。PI製ベルトよりも精度の良い抵抗安定性だったからだ。6ナイロンがPPSに相溶していたので、脆さはMIT値でPPS単体の50倍以上となった。品質特性をすべて満たしPIよりも電気特性が優れたベルトを簡単に作ることができたと同時にカオス混合の条件と得られる機能も確認することができた。
 
(注1)科学的可能性なので対策は必須である。この技術を創りだしてわかったことだが、PPSと6ナイロンのスピノーダル分解速度は遅く、また流動状態ではこれが極めて遅いこともわかった。これは技術を創り上げる上において幸運な現象だった。このように技術を作ってみて初めてわかる科学もある。iPS細胞もそのような幸運があったので成功している。
(注2)どのような押出成形機でもこの機能を備えているわけではない。この時の金型形状は現場で5年間改良されてきた特殊な形状だった。驚くべきことは、その改良点には科学的意味があり、マトリックスが単一成分の時に発生した問題は、ウェルドも含め不完全ではあるが改善されていた。この部分は科学と技術の違いや科学的に解明されていない世界で科学的に問題解決した時に生じる問題を論じるには適した例であるが、そこには偶然様々な技術が生まれていたので、ここでその詳細を公開できない。ちなみにPPSだけの場合にこの金型で押出成形を行うと歩留まり30%程度で低価格プリンターにかろうじて使用できるレベルとなる。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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