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2015.08/21 Tg

高分子のガラス転移点(Tg)は、溶融して液状となった高分子を冷却する過程で高分子が流動できなくなり、固体となった時に現れる変曲点である。無機ガラスのTgよりも高分子のTgは面白い。
 
分子レベルでは運動性を失っていないので、分子を眺めることができたならば微小領域の隙間を観察すると、犬のしっぽのように高分子の端がぴくんぴくんと動いている様子を見ることができる。
 
この部分は、高分子の自由体積(部分)と呼ばれる。すなわち高分子を溶融状態から急冷すると非晶質となるが、この状態で、完全に分子運動が凍結された部分と自由体積部分の二つの構造ができる。
 
結晶性高分子では、さらに非晶質状態の中で規則性が高い構造もできるので、高分子の急冷プロセスでは3種類の高次構造ができることになる。これらは構造の特性が異なるので、急冷した高分子を熱分析、例えばDSCをTg温度を超えるあたりまで測定したときには3種類の変曲点が現れても良さそうだが、DSCの感度はそこまで高くなく、Tgが一つ観察されるだけである。(ただし、結晶性高分子では結晶化温度Tcで鋭いピークを示すので、2つ現れることになるが)
 
二種以上のコポリマーでは二つ以上Tgが観察されるが、ここでは話を簡単にするために1種類の高分子で考える。さて、DSCで観察されるTgは、結晶化温度を示すTcのピークのように鋭く現れない。明らかなピークとして現れず、時にはわかりにくい情報となるが、高分子のプロセシングの履歴をそこに観測することができる。
 
教科書を読むとTgはTcのような相転移ではないのでDSCでは、熱エネルギーの解放あるいは吸収を示すピークとして観察されない、とある。そしてただ比熱が変化するのでベースラインの変化が観察されるだけ、とそっけない説明である。
 
昔そのベースラインの変化量は高分子の自由体積の量を示している、と習った。そして、DSCでTgを計測してそのような単純なグラフとして現れた時にはうまく測定できた、と思っていたが、Tgが現れなかったり(注)、ピークとして現れたりするデータと遭遇するようになり、その意味の奥深さを味わっている。いまだ実践知と暗黙知の残っている世界である。
 
(注)DSC測定において、Tgが観察されない場合の隠し技がある。Tgが観察されないからTgが無い、という結論は正しくなく、そのような材料でもTMAを用いるときちんとTgが現れる。隠し技を用いるとDSCでも本来のTgが現れるようになる。
  

カテゴリー : 一般 高分子

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