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2016.01/13 21世紀の開発プロセス(2)

故田口玄一先生は、「企業で基礎研究をするな、基本機能の研究だけ行えば良い」、と言われていた。個性的な先生で、直接3年間ご指導いただいて、この言葉の背景を理解できた。先生には昔の日本で起きた研究所ブームのイメージが強く残っていたようだ。
 
1970年代は、各企業で基礎研究部門が設立され、企業から有名な研究者も育ち、その後アカデミアで活躍されるような人材も輩出した。この時、企業に科学という形式知の世界が取り込まれていった。ただ、科学の目的はあくまでも真理の追究なのである。技術開発では、自然現象から人類に有用な価値をもたらす機能を取り出すことが目的であり、この点を田口先生は言われたかったのだろう。
 
田口先生との直接の議論から、田口先生は科学を軽視していないこと、むしろ科学に忠実になろうとされている姿勢を感じた。しかし、タグチメソッドは、実は科学と言うよりも実践知を効率よく活用するときに、そのメソッドとしての価値が出てくる手法である。
 
わかりやすく言うと、タグチメソッドを科学的に厳密に活用しようとするとうまく行かない場合や、悩んでしまう場合も出てくる(注)。
 
極端な表現になるが、タグチメソッドが難しい、とか面倒くさい、とか感じる人の頭は、科学に毒されているかもしれない。タグチメソッドの教科書には、統計学と見間違うような計算式が出てくるが、これは無視して、ただメソッドとして理解すれば、これほど技術開発の効率を上げてくれる方法は他に無いのだ。
 
また、教科書に書かれた緻密な説明は、先生が科学を大切にされていた証でもある。一方でラテン方格を用いて実験を行い、欠損値が出た時の処理については、教科書に書かれていない方法を教えてくださったが、納得のゆく極めて非科学的な方法だった。
 
タグチメソッドで例えばL18をよく用いるが、ラテン方格でL18は実験規模を考えるとちょうど良い大きさである。実験によっては、結果が出るまでに1ケ月かかってしまう場合もあるが、1ヶ月後にあらゆる条件のデータが得られると考えたら、極めて効率が良い。
 
タグチメソッドに出会う前は、実験計画法を独自に工夫したクラチメソッドでラテン方格を利用していたが、考えられる実験条件の効率の良い一部実施を可能にしてくれる長所がラテン方格にある。真理が確定しない実践知を用いる試行錯誤の実験では、すべての条件について実験をすることが成功確率をあげる。タグチメソッドでは、ゆきあたりばったりで無計画になりがちな試行錯誤を、制御因子を考えることにより、計画的な試行錯誤に矯正してくれる。
 
仮説を設定し、科学的に実験を進めることも重要で時には効率を上げることができる。しかし、このためには扱おうとしている現象の形式知が整備されていることが必須なのである。形式知が整備されていない領域で科学的に研究を行うと著しく効率が悪くなる。例えばSTAP細胞の騒動を思い出して欲しい。
 
(注)日本の科学教育は研究者を生み出すことはできても、技術者を生み出していない。化学工学という分野でも、当方が在学中の時代には、科学者を養成していた。科学者の第一の目的は自然の性質を研究し、一般法則を導き出すことで、その精神活動は帰納的に行われる。目標は、自然を分析し、理解し、可能なときにはそれを数学で表現し、真理とすることである。技術者の責任は、科学的原理を基本手段として、数学を駆使し、実際的で有用な応用に導くことである。技術者が難しい役割となるのは、科学的原理が不明な場合にも、技術者は同様の知識活動を行わなければいけない点である。すなわち、科学者は真理を見いだすだけで良いのだが、技術者にはいつも応用すなわち機能の実現が求められる。技術者も科学者と同様に、帰納的推論と、さらに演繹的解決による機能実現が求められる。現在の日本の科学教育では、一連の精神活動を連続的に働かせる方法を教えていない。当方はこれは日本の科学教育の欠点だと思っている。この一連の活動は企業でOJTとして指導される。弊社でもそのお手伝いをしている。やや抽象的な説明になったが、弊社の未来技術研究所のサイト(www.miragiken.com)の活動報告で問題解決法について少し内容を紹介している。

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