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2016.01/25 21世紀の開発プロセス(12)

電池事業のお手伝いをしているときに、高純度SiC製造パイロットプラントであるFC棟を明け渡せと言われたのは、どの職位から出ていた指示だったのか興味があった。ちなみに高純度SiCのテーマ予算は、当時毎年減額されず、研究設備も毎年購入できたから研究開発本部レベルの指示でないことは確かだ。
 
電池のプロジェクトをはずれたた時、半年ほど上司不在の状態になっていた。サラリーマンとして、また組織人として、これは少しショックな出来事だったが、部長クラスの仮の予算コードを頂いていたので、業務上の不自由は無かった。
 
また、この1年前にはサラリーマンとして、もっとどん底状態(注)だったので、人生の流れを変えるために結婚しており、新婚生活でストレスを十分に解放できる状態にあった。琴奨菊のノロケ優勝インタビューも理解できる。結婚前は、FC棟まで徒歩3分の独身寮で生活していたが、新婚家庭は通勤に1時間以上かかる距離で、会社の地獄の気分を幸福感へ切り替えることができた。
 
余談になるが、マネジメントは事業以外に家庭や人生にも必要である。社会へどのように貢献するのか、あるいは組織へどのように貢献するのか考えるときに、まず健全な精神状態を維持することは重要なことである。
 
健全な精神状態があって初めて研究開発に邁進できるのである。研究開発や事業を推進しようとするときに、障害はつきもので、その時健全な精神状態でなければ健全な判断ができない。健全な判断をするためにも、心のリセットのできる環境を自己責任でできるだけ早い時期に作らなければいけない。
 
結婚は人生の墓場などという言葉があるが、それはマネジメント次第でハッピーランドにもなる。棺桶に入ると人生観が変わるという人もいるくらいだから、墓場でも良いかもしれないが、できれば、気分をリフレッシュできる家庭を築きたいものである。
 
しかし、40年ほど前「家庭の無い家族の時代」という本がベストセラーになり、世の中がそのようになっていったのが気にかかる。家庭は一つのコミュニティーとして幸福に生きてゆくのに必要な仕組みであると思っている。
 
さて、新事業開発という仕事は、社内でどれだけのサポートが得られるのかが重要である。どんなに優れた事業テーマでも、社内で反対されたならば、継続が難しくなる。会社の規模が大きくなればなるほど反対勢力の現れる確率は高くなる。
 
高純度SiCのテーマは、スタート時から研究所内に反対者が多かった。社長方針としてファインセラミックスが掲げられていても、研究所内にその専門家がいないという理由で、方針そのものを軽視する管理職もいた。しかし、30年前の3本の柱の中で生き残っていたのが、最も反対の多かった高純度SiCのテーマだった、という事実は、企業で新事業を企画するときに注目すべき点である。
 
一方で、ポリマー電池やメカトロニクスは、適社度の高いテーマと評価されたのに早々とダメになった。このあたりの状況は、テーマを手伝ったりした立場で、なぜ賛成者が多い新事業テーマがダメになるのか、よく理解できた。ご興味のある方はお問い合わせください。
 
(注)上司から高純度SiCのテーマに関わらないように指示されていた(テーマは他の人が担当した。すなわちテーマから外されたのだが、アイデアやアドバイスだけ出すように言われていた中途半端な状態だった。)。そして新たなテーマ企画を求められた。セラミックスヒーターやシリコン単結晶用セラミックスるつぼ、半導体治工具、薄膜コンデンサー、磁気薄膜、切削チップなど毎月のように新しい企画を求められた。それも企画書だけでなく、企画を証明できる世界初のサンプル作成まで要求され、ほとんど地獄状態だった。それでもゴム会社で事業を成功させようと必死だった。
例えば、切削チップの企画では、部分安定化ジルコニア並みの割れにくい高靱性SiC基コンポジットセラミックスを1週間ほどで開発できたが、それだけでは企画として認めていただけず、実際に鋳鉄を切削し、世界一であることも証明するように要求された。高純度粉末の製造ラインや焼結炉等の設備はあったが、切削チップに仕上げるラインなど無かった。上司に相談しても、当方の仕事だろう、と言われるだけだった。仕方が無いので設備メーカーからサンプル評価をしてくれる場所までを自分で探し、何とか目標を達成することができた。この時、出来上がった世界初の切削チップを都立工業試験所に依頼し試験をしていただいたら、本当に世界一のデータが得られ、あまりにも目の覚めるようなすごい結果で発明者である当方もびっくりした(SiCで鋳鉄を削ること自体、科学の常識に反している)。この体験で、情報を集め、狙いを定めれば、一応「モノ」を創ることが可能、という自信とコツを会得した。ちなみに、このような世界初の超物性の新素材を開発する場合に、科学のような形式知などほとんど役に立たないのである。どうしたらよいか興味のある方はご相談ください。

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