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2016.01/28 21世紀の開発プロセス(15)

ゴム会社から写真会社へ転職し、全社の売上の半分を占める主力事業が消失するという貴重な経験をした。20世紀末のデジタル化の波でカラーフィルムなどのアナログ技術の市場が急激に縮小したのだ。カメラメーカーとの合併により、事業を再編成しかろうじて生き残ったが、ライバルメーカーは、最後のフィルムメーカーとして生き残りに成功するとともに、主力商品だったカラーフィルムよりも売り上げを伸ばす新事業の立ち上げに成功している。
 
カラーフィルム業界では倒産した会社もあったので、何とか生き延びただけでも奇跡だが、ライバルメーカーの取り組みは、お手本にすべき事例である。当方は転職時のトラウマもあり、徹底して事業の流れに身を任せ、貢献の道を探っていた。合併により事務機が主力の会社となったので、その事業に貢献するため豊川へ単身赴任した。
 
ゴム会社と写真会社では、年齢も立場も異なっていたが、求められていたのは事業に対する直接の成果であり、一致していた。ただ、新事業で貢献するのか、既存事業で直接の成果を出してゆくのかの相違点があった。この違いは、開発プロセスにおけるゴールに、その影響が出てきた。既存事業におけるゴール設定は新事業におけるゴール設定よりも容易に明確に具体化できた。
 
既存事業では、開発途上で発生する問題もメンバーに共有化された実践知で明確にでき、多くの場合科学の力だけでそれを解決でき不自由しなかった。また、開発プロセスも前任者のやり方を踏襲でき、未経験の問題が発生しない限り、それで何とかなる場合が多かった。ゆえに、開発プロセスをルーチン化しやすく、ステージゲート法のような研究開発管理手法を導入しやすいと思った。
 
これに対し、新事業における開発のゴールは、あくまで初めての事業を立ち上げること(注)にあり、仮に商品を具体化しその仕様をもとにゴールを設定したとしても開発途中で常に事業性、それも経験の無い事業の顧客を正しく見ているのかどうかチェックする必要があった。そのために少しでも早く商品の形に仕上げ、その品質を検討するという作業が必要だった。
 
新事業における研究開発でも、旭化成のようにステージゲート法で成功しているところもあるが、新事業では、常に事業を無事立ち上げられるのかどうかのチェックを頻繁に行う必要があると思っている。既存事業については製品情報や市場ニーズを正確に把握できるが、新事業ではそれが難しく、調査企画段階に設定したターゲットの仕様変更を迅速に行わなければいけない状況が出てくる場合が多い。時には、検討していた技術そのものを大きく変更しなければいけない場合も出てくる(すなわち戦術だけでなく戦略の変更も覚悟しなければいけない。)。
 
ソフトウェア―開発では、ソフトウェア―という商品の性格に新規事業と同様の側面があるためか、1990年代にその開発プロセスの反省があり、アジャイル開発と呼ばれる手法が誕生している。この開発プロセスはソフトウェア―開発以外の技術開発にも応用でき、特に新規事業立ち上げにおける技術開発プロセスとして適していると思っている。
 
(注)高純度SiCの事業では、SiCの高純度化技術を核にして何度も事業の見直しを行っていた。レーリー法向けの原料事業は、提案した時に否定された。SiCウエハーの市場が全くなかったためと原材料売りは、コモディティー化した時に事業として利益が少なくなるからだ。半導体治工具のようなエンジニアリングセラミックスの市場は立ち上がりつつあるように見えた。また、セラミックスをエンジニアリング分野すなわち信頼できる力学物性を旧来のセラミックスに賦与する概念が、セラミックスフィーバーのコンセプトになっており、粉を形にする技術まで創り上げるように研究開発本部長から指示が出ていた。高純度SiCそのものの担当から外されて、いろいろなファインセラミックス事業企画を担当させられた時には、高純度SiCの技術をプリカーサー法という概念でとらえ、その技術で立ち上げ可能な事業を探索した。このような作業にステージゲート法を適用することも可能だが、それは特殊な運営方法になると思われる。少なくとも既存事業のそれとは運営方法が大きく異なってくるだろう。
ポリアニリンを用いた電池プロジェクトでは、電池事業を立ち上げる観点で努力していなかった、と思う。ポリアニリンの電池を商品として仕上げる過程で、Li二次電池の事業に必要な技術ノウハウが蓄積されていったので、評価技術も含めLi二次電池事業、さらには電池事業そのものを生み出す技術力が蓄積されていた。日本化学会から技術賞も受賞していたのである。新規事業の開発プロセスにおいて、アジャイル開発の重要性は、事業に必要な技術の全体像を早期に把握できる点にある。これは机上の企画でもできる、という人もいるが、事業に必要な実践知や暗黙知は机上では分からない。
アジャイル開発でもステージゲート法の取り組みが可能なように思われるが、むしろ異なる手法として運営したほうが良いように思う。ソフトウェア―開発でもステージゲート法の段階的な開発手法を否定してアジャイル開発が生まれ、その独特な運営方法が完成されていった。
弁証法的な見方をすれば、既存事業の研究開発管理の手法もアジャイル開発を取り入れたならば、開発期間を短縮できるメリットが見えてくる。

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