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2016.02/12 21世紀の開発プロセス(22)

単身赴任前に、研究開発必勝法により開発成功へのシナリオは描かれていた。ただ、PPSと6ナイロンを相溶させる機能をどのように実現するのか、机上で考えても分からなかった。科学で否定される機能なので、論理的に導かれないのは当然のことである。窓際管理職という幸運な立場だったので、予算はなかったが自由に出張や実験はできた。
 
ドラッカーが言っていた貢献と自己実現が働く意味という言葉は、窓際族には勇気になる。貢献のベクトルを間違えなければ何でもできる立場を味わうことができる。しかも日本の会社では生活できる十分な給与がもらえる。さらにベクトルさえ合っておれば、首にならないし、自分で進路さえも自由に選べるのである。さらに窓際で明るく輝くことも自己実現次第である。ゴム会社の新入社員時代にメモしていた備忘録を見ながら、混錬技術の勉強を始めたが、何でも記録する習慣は大切である。
 
「あの日」を読むとメモを取っていなくても、恨みつらみというものは忘れない、という人間の性を改めて感じるが、実験ノートさえとっていなかった問題は、大事な細かい点がこの本に書かれていないことと関係があるのだろう。当方の備忘録は、実験ノートが無かったゴム会社で、実験ノート兼講義録兼**何でもノートだった。日記の代わりでもあった。
 
ドラッカーも言っていたように、記録することは自己実現努力の基本である。備忘録のおかげで、30年近く前のポテンシャルに技術力を戻すことができた。ゴム会社ではセラミックスのキャリアであったが、3ケ月間はゴム技術者だった。しかも、優秀な指導社員のおかげで、当時先端材料だった樹脂補強ゴムの実用的な処方を3ケ月で完成できるポテンシャルまで能力が高かった。
 
単身赴任前に使えそうな機能を探すために、バンバリーやロールなどの混練機でPPSと6ナイロン、カーボンを混練してみた。そのとき、機能に使えそうな現象が幾つか発見されていた。ただ、検討に用いた方法が連続プロセスではないので実用性が無く悩んでいた。しかし、ロール混練の条件を工夫するとPPSと6ナイロンが相溶したようなデータが得られていたので、実用的なカオス混合プロセスさえ考案すれば、必ず成功するという自信があった。
 
これはSTAP細胞の研究者と同様の感覚で、ただその研究者と当方の違いは、再現性に向けて工夫と実験を自分で繰り返していたことである。そして観察した状況を細かく手帳に記入していた。技術開発が成功するかどうかは、機能の発現について再現性がどの程度あるかによる。また、他の人が実験をしやすいように工夫した点を忘れないように書くことである(注)。機能の再現性が十分に高いならば、それを経済的なプロセスで組み上げるだけである。
 
経済的なプロセスのアイデアが、たまたま押出成形の現場で閃いた。機能の再現性の確認は、単身赴任前に、十分に実験していた。ゆえに発見された経済的なプロセスを周囲の納得が得られるようにデータを組み合わせて、論理的に構成する作業だけであった。
 
詳細は省略するが、製品化までの期間に、世界で例の無いカオス混合プロセスの工場が稼働し、PPSと6ナイロン、カーボンの配合を変更することなく、中間転写ベルトの開発に無事成功した。この開発の最後のデザインレビューで、方針管理に基づき外部のコンパウンダーとともに開発を進めてきたマネージャーBは、従来法では技術ができないことが証明された、と否定証明を展開し、子会社の工場のコンパウンドでなければ製品ができないことをプレゼンで示してくれた。否定証明もこのように使用すれば有益な方法となる。
 
(注)ドラッカーも記録することの重要性を著書の中で述べている。記録された内容を後日読んでみると大変参考になるときがある。また、数年後に読めば成長の記録となる。研究者が実験ノートを書くのは、ただ備忘録のためだけでなく自己の成長のためにも必要なことである。
 

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