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2016.03/22 竹とんぼ

昨日竹とんぼの話を書いたが、20年近く前タグチメソッドが日本で普及し始めたときに、品質工学フォーラムという雑誌が刊行された。その数号めかに竹とんぼの飛距離安定化をタグチメソッドで行う、という記事があった。
 
故田口先生に直接ご指導していただいていたので創刊号から数年とっていたが、起業した時に処分したため読み返すことができない。国会図書館でも行きたいと思ったが月曜日は休日だった。世間も休み。本日、朝起きて今週忙しくて行けないことに気が付き、こうして思い出しながら書くことにした。
 
品質工学フォーラムに書かれた座談会風の記事の内容は、こうだった。すなわちタグチメソッドの定番となる基本機能を何にするかの議論があって、そしてその基本機能の制御因子を議論し、誤差因子として多数あるので調合誤差因子として使用してSN比を求め、ラテン方格を用いた実験で各制御因子の水準とSN比の関係をグラフ化した。
 
得られたグラフから最適条件を求め、確認実験を行ったところ、飛距離が伸びなかった、という内容だった。そして結論が基本機能は難しい、という感想が書かれていた。その記事として基本機能の選択の重要性を言いたかったのだろうか、タグチメソッドが難しい、ということを言いたかったのか、主旨のよくわからない記事だったように記憶している。
 
ただ、NHK放送の番組のように、竹とんぼを回転して飛ばす機械や、風の影響を配慮して体育館の中で行ったりしはしていない。誤差因子がいっぱいの状態で雑誌の実験は行われていた。
 
「凄技」における科学対決の時にそのあたりの解説もしていたが、それによれば品質工学フォーラムの記事において誤差因子が十分に選ばれていなかった影響が大きく、これが原因で確認実験においてよい結果とならなかったと推定される。タグチメソッドでは、因子の選択は極めて重要な作業で、この作業において実践知がものをいいう。
 
故田口先生は科学に拘り、タグチメソッドを科学の世界で語ろうとされていたように感じたが、弊社で指導するタグチメソッドは形式知だけでなく実践知や暗黙知も総動員する。すなわちタグチメソッドをあくまでも技術開発のツールとして指導している。
 
少し話がずれたが、竹とんぼおじさんの試行錯誤で手作りによる竹とんぼが、科学の英知を集めた竹とんぼや、科学の世界で実施されたタグチメソッドで最適化された竹とんぼよりも遠くへ長時間飛んだという話を世の技術者は注目したほうが良い。
 
科学は真理を追究するのが使命であるが、技術は自然界から機能を取り出しそれを製品に組み入れる行為である。それぞれのミッションは異なり、メーカーの技術者は技術開発を行っているのだ。科学の研究も大切だが、技術開発しなければ飯の食いあげである。
 
だからと言って、ヤマカンを頼りに技術開発を行っていては駄目である。ファーガソンの「技術屋の心眼」に書かれていたように、カンにも働かせ方(注)があり、経験にも伝承の仕方がある。形式知はやがてAIでどこでも同じ成果を出せるようになるばかりか、形式知で組み立てられた部品は簡単にリベールされてしまう。しかし、暗黙知と実践知により創りだされた部品は容易に他社がまねできない技術の成果となる。もちろんそこには形式知である科学の成果も造り込まれている。
 
この意見にご興味のある方は弊社へお問い合わせください。
 
(注)E.S.ファーガソンは、その著書の中で「心眼」の働かせ方を書いている。科学では説明がつかないが、日々の営みの蓄積から暗黙知は形成され、科学的に見れば不思議ではないが、何となく奇妙だと思う現象でその知は機能する。20世紀にはロジカルシンキングがもてはやされた。確かにロジックは重要であるが、すべてをロジックで語り満足していないだろうか。ロジックが、他の可能性を排除している、というパラドックスに気がつくとこの暗黙知の働かせ方の理解が進む。科学の世界で起きたSTAP細胞の事件は、暗黙知と形式知の闘争と捉えることもでき、その闘争の中で形式知の権威が自殺に追い込まれた。その自殺の原因が責任感だけで無いことは、理研の幹部もご存じのことである。「あの日」にも書かれているが、小説家の方がもう少しこのあたりをフィクションでクリアに表現されると21世紀に日本が目指さなければいけない技術開発の方向が見えてくるはずだ。弊社「未来技術研究所」(www.miragiken.com)では、STAP細胞の事件について時計を止めたままにしている。弊社の科学と技術に対する姿勢については、この研究所の活動日誌にある「科学と技術」をご一読ください。「コロンボとホームズの対決」において、コロンボは技術の象徴であり、ホームズは科学の象徴として表現しています。

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