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2016.03/25 備忘録:高分子の相溶(5)

高分子の相溶について実務で注意すべき点は、形式知と実践知が混然一体となってあたかも完成した形式知であるかのように教科書に書かれている点である。わかりやすく言えば、教科書に書かれている内容と異なる現象が実務の現場で起きることがある、あるいは起こせるということである。
 
このような考え方をWEBという公共の場で書くと当方の知識を疑われる危険があるが、リスクを承知で書いている。当方はアカデミアで働く身ではなく、技術を追求する立場なので、高分子技術の進歩に大切という理由で技術者の視点で勇気をふり絞り書いている。
 
先日紹介した、ポリオレフィンであるアペル樹脂にポリスチレンが相溶し透明になる現象は教科書に書かれた内容で説明できない。OCTAでχを計算しても正となり非相容系ポリマーブレンドであることがわかる。しかし、重合条件を選んで合成された特殊なポリスチレンはこのポリオレフィンに相容して透明になるのだ。
 
実用性の無いこのような実験を何故行ったか?カオス混合も含めた混練技術の可能性についてアイデアを練っていて、新しいプロセシングで面白い技術が出来ないか考えていた(注)。たまたまサラリーマンの一時期に、それまで倉庫として使用されていた一室で仕事をするように言われたが、さらに具体的な業務ないからと研究所長に告げられた。
 
それまで30名前後の部下を抱え成果も出して会社に貢献してきたのに何も説明無く、突然いかにも会社を辞めて欲しい、という扱いを受けたなら、辞める前に少し楽しみながら貢献させていただいても良いだろうと思い実験をした。窓際になっても腐らずに貢献を考える習慣はドラッカーの教えである。
 
詳細について問題になるといけないので書けないが、光学材料が不思議な緩和現象を起こしていたので、この緩和速度を何かポリマーを相溶させて遅くし改善(やや荒っぽい説明だがまだ20年たっていないので詳しく書けない)してやろう、と考えたのがきっかけである。だが、ポリオレフィンとPSを混練しても相分離し不透明な樹脂しか出来ない。科学の常識では当たり前だが、自分の身の上に当たり前で無いことが起きたのだから、少しひねくれた発想でもと思い、外部の企業に当方の正直な気持ちをお話しし、協力していただいた。
 
具体的な実験の目的は機密事項になるので話せないが、窓際に至る身の上話なら公開情報を基に正直に話せる。仕事の依頼理由を誠実に話をすることは大切である。特に教科書に反する企画に協力してもらう訳なので、そのリスクとそこから得られる成果はそれぞれの企業で考え方が異なる。お互いにリスクを納得したうえで実験を進める必要があるので、誠実なコミュニケーションは重要である。
 
早い話が、リスクの高い仕事であるが、得られる成果は大きいばくちの様な仕事を一緒にやってみませんか、という提案をした。当方は時間が十分にあるから一生懸命混錬しシートサンプルを作るので、外部の企業は様々なPSをひたすら合成してください、と頼んだ。
 
実験を進めるにあたりPSの合成条件を一応提示したが、合成の順序はすべて外部の会社に任せた。様々な条件でPSを合成していただき、当方はひたすら送られて来るPSとアペル樹脂を混練した。そしてきれいな白い樹脂しか得られなかった毎日は、やはり運が悪いのか、と落ち込んだりしていた。
 
13番目のPSでやはり白い樹脂しか得られなかった時に、PS合成の担当者からどこまでやりますか、と問い合わせがあった。まだ13個目なのであきらめるわけにゆかない、高純度SiCの前駆体では、300種類の配合を検討した、と回答したら、静かにわかりました、という声が返ってきた。そして、さらに5種類のPSを送ってきた。その中の一つ、最初から数えて16番目のPSで透明になる試料が得られた。(続く)
 
(注)ゴム会社で3ケ月ほどロール混錬を経験した。新入社員テーマだった樹脂補強ゴムを開発するためであるが、その時の指導社員からカオス混合を実用化できるアイデアを考えてみよ、と宿題を出されていた。

カテゴリー : 高分子

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