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2018.02/12 科学者のときめき(3)

科学者は科学という哲学を頼りに仕事をしているが、技術者は第六感も含めたすべての感覚を働かせながら自然を眺めている。この時必ずしも科学という哲学は必要ではない。

 

科学者と技術者とがコラボした結果、うまく発展している分野がある。高分子である。当方が大学で高分子を学んだ時に一次構造、すなわち分子レベルの構造が重要と習った。

 

また、高分子の歴史的認識において、その分子の大きさが着目されてきたこともあり、ノーベル賞を受賞したフローリーの研究もずばり高”分子”に関する基礎研究であり、実用性の乏しい研究成果だった。

 

この一次構造に対して高分子の塊として現れる現象や機能性については、おおざっぱにとらえられて高次構造と呼ばれていた。

 

DNAの二重らせんを二次構造と呼ぶ科学者もいたが、当時はこれも高次構造の一つとして扱われた。

 

研究の着眼点として高分子を階層的に取り扱おう、という動きが出てきたのは技術者からである。技術者が高分子の機能と高次構造の関係の重要性に気がつきアカデミアへ相談するようになったのである。

 

当方が社会に出た1980年前後のころ、企業の技術者はすでに高分子を階層的にとらえていた(注)。アカデミアでは一次構造と高次構造だけであったが、技術者は、高分子材料物性の細かい機能性を取り出す必要性から、自然とその階層性を問題にしなければいけなくなった。

 

このモノの見方にアカデミアが飛びついたのだ(注2)。2000年の精密制御高分子プロジェクトや、20世紀末に行われた土井プロジェクトは高分子の階層性について一定の成果を出した重要なプロジェクトである。

 

高分子物理は、多少のおおざっぱさをその論理に認めつつ、素粒子物理とは少し異なる哲学で発展している科学として稀な分野である。

 

一方技術者は高分子物理の科学体系がうまくできていなくても自然を経験知や暗黙知で階層的に眺めることにより、上手に機能をそこから取り出すことに成功している。

 

(高分子科学は技術を科学が追いかけている状態だ。当方の開発したカオス混合機の機能については、いまだに科学で説明できない。しかし、この装置を使うとポリマーアロイをナノオーダーで美しくできる。当方が自然現象眺めていたのは科学という哲学とは異なる方向からで、それを具現化したのがこの装置である。)

 

恋は人を盲目にして既婚者も独身者も区別せず許される、というのが瀬戸内寂聴氏の見解であるが、仏教も科学同様の倫理と異なる哲学なのだろう。倫理という人の自由を束縛する考え方を排除しているのかもしれない。

 

高分子科学者はその昔、素粒子物理学者と同様に高次構造を区別せず細かくなる方向で眺めていた。しかし、40年ほど前まで一次構造を重要と言っていたことを忘れ、今はその階層性に心をときめかせている。

 

(注)当方の新入社員時代に担当した樹脂補強ゴム(一年間のテーマだったが)では、最も高次の構造は、ゴム相で島が形成され樹脂相で海となっていた海島構造が観察された。さらにその下位の構造として樹脂の結晶性が物性を支配していた。さらにゴムの架橋密度も他の力学物性に効いており、この階層性と機能の関係が商品設計の重要なツボであり、これを3ケ月でまとめた。指導社員は大変優秀な人で午前中座学で形式知の伝承を、午後は実技で経験知の伝承という指導方法だった。指導社員は定時退社される人だったので、翌朝までは自分の暗黙知を蓄積する時間となった。

 

(注2)セラミックスフィーバーで固体物理の分野が急速に発展した。強相関物質という概念が誕生し、これを高分子に応用した、という説もある。しかしセラミックスと高分子の両者の研究をしてきた立場から見ると、固体物理の強相関物質という分野をご存じない先生もおられる。それゆえ科学という哲学の視点よりも技術者の影響が強いと思っている。

カテゴリー : 一般 高分子

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