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2020.02/03 花王のパソコン革命(4)

信じられないことだが、上司は全社の事務管理がどのように行われているのか、ご存じなかった。

 

全社の事務管理が大型コンピューターで行われ、給与計算から従業員管理、設備管理、予算管理までゴム会社ではすでにOA化されていたのだ。

 

これは、新入社員の研修で創業者の先見性の事例として学ぶ同時に、職場配属された時にOA化された職場でどのように事務を進めるのか訓練された。

 

ただ、研究所では庶務の女性が数人いて、端末の操作含め研究員が一般事務に触れる機会は無かった。

 

管理職に至っては、毎月打ち出された事務関連情報が回覧されてくるので、事務管理の仕組みなど知らなくても仕事ができた(驚くべきことだが、この出力さえも大型コンピューターから打ち出されたものであることを上司は知らなかった。)。

 

このような背景があったので、研究所でOA化のプロジェクトが立ち上がった時に、大型コンピュータで管理されていなかった、試薬管理のデータベースをまず構築することになったのだ。

 

プロジェクトの司会を上司が行っていたので、当然理解されていると思ったら、プロジェクトの流れすらも理解していなかった。

 

試薬管理で100万円かかるのなら、本に書いてあるような従業員の住所管理からやったらどうか、などと言い出した。

 

そして毎月回覧されてくる従業員の勤怠表がすべてカタカナだからこれを漢字表示するようにしてくれ、と続けてきた。

 

さらに、漢字表示させるだけなら、本体と漢字プリンターがあればよいだろう、と訳の分からないことを言い出したので、せっかくの機器調査の説明がとん挫した。

 

一緒に説明していた元指導社員が、とりあえずそうですね、と言い出したのでびっくりしたが、打ち合わせを終えてから、もう一回日をあらためて、時間を4時間ぐらい取って、説明しようと、覚悟を話してくれた。

 

すなわち、全社の事務の状況とOA化のプロジェクトにおける流れ、当方の努力などをまとめ上げ、購入前の説明に3時間ほど費やしてこの上司の理解を得ることに成功した。

 

企業における上司とのコミュニケーションのコツは、幼稚園の生徒に話すつもりで、と教えてくれた人がいたが、サルに芸を教えるつもりで説明すると腹も立たない、とこのプロジェクトで学んだ。

 

その心は、時にはエサが必要、である。元指導社員は、上司が安全管理責任者である点に着目し、試薬管理のデータベースが出来上がった時に、職場の安全管理にどのように役立つのか、という点を中心に説明していた。

 

コンピューターの説明などほとんどせず、試薬整理のために毎月1日行っていた棚卸が不要になることや、庶務の女性を1名減らせるなどと、100万円のコンピュータシステムを導入することにより生み出される効果が5000万円とぶちあげた。

 

以上はオフィスにコンピューターが登場したころの実話である。上司が無能に見えるのはいつの時代でも同じで、上司が無能である、と嘆く前に上司を動かすことのできるコミュニケーション能力を部下は身につけなければいけない。

 

ドラッカーは知識労働者の活躍する社会では、自分のアウトプットを他の人に活用してもらえるように活動する責任がある、と説いており、相手の無能さに責任は無く、相手の理解を得ることのできないコミュニケーションスキルの責任を指摘していた。

 

若い時にはなかなか理解できないかもしれないが、有能な先輩のコミュニケーションスキルを観察すると見えてくるものがある。組織のあるべき姿はメンバーの能力に依存せず機能し、成果を出せる仕組みである。有能な社員とは、どのような組織体制であっても成果の出せる人である。成果の出ない組織とはメンバー全員が無能とみなされる。

カテゴリー : 一般

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