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2020.11/13 技術者の解放(3)

科学的に改善不可能と否定証明で論じられた現象でも、技術で改善可能である。このことが技術的問題解決法と科学的問題解決法とが等しくないことを示している。

 

現代の科学で解明できないから、技術的に不可能という結論をすぐに出す人がいるが、科学と技術では、やる「コト」が異なる。

 

技術では現象から「機能を取り出すコト」が目標であり、科学とは現象を説明する仮説の真偽を明らかにすること、すなわち「現象から真理を導き出すコト」が目標になる。科学的に不明でも技術で再現よく改善できれば実用化できることに気が付いてほしい。

 

科学を先導できる技術者こそ優秀な技術者であり、そのためには科学の形式知に精通していなければならない。例えば材料技術者ならば、セラミックスから高分子、金属まで科学の形式知を学んでおく必要がある。

 

この意味で高分子だけ知っています、という材料技術者は未熟である。しかし、高分子科学者という職業ならば、尊敬される場合も出てくるかもしれない。

 

添加剤の入っていないゴム処方を開発せよ、と電気粘性流体の開発プロジェクトリーダーから命じられた時に、目が点になった。すぐに「あほか」と言いそうになったが、そこはこらえて「回答は1週間待ってほしい」、と伝えている。

 

1週間あれば界面活性剤を見つけることができると考えたからである。しかし、界面活性剤の検討を電気粘性流体の担当者たちが1年続けていたことを知っていたので、ここは忖度して、「高純度SiC事業の共同開発先とテーマの調整をしたい」と回答している。

 

組織活動においては、科学者に対する忖度による知恵の発揮が重要で、これができないと、科学者は否定証明の論理を用いてチャンスをつぶしにかかる。企業の科学者にはこのような輩が多いので技術者は組織活動における忖度の働かせ方を学ばなければいけない。

 

忖度をはたらかせて、謙虚に「1週間勉強のために、耐久試験を終えて増粘した電気粘性流体を少しほしい」と伝えたら、ドラム缶にいっぱいあるから自由に使ってよい、と言われた。

 

ヘドロのようになった電気粘性流体を譲り受け、それを300個のサンプルビンに分取し、手持ちの界面活性剤はじめ社内にある界面活性剤になりそうな化合物まで集めてきて、それらをサンプルビンに次から次へと添加した。

 

スタップ細胞の騒動ではハートマークやビックリマークだけで書かれた白紙の実験ノートが話題になったが、この時の当方の実験ノートには、界面活性剤になりそうな化合物から界面活性剤まで、その成分情報やHLB値、曇天などのデータや当方の経験からのアイデアメモなどこの一晩の実験だけのために数ページが真っ黒になった。

 

科学者の中には実験ノートをメモ程度に考えている人がいる。すなわちメモ程度でも後からロジックで正しく実験時の情報を表されると考えているからだ。

 

技術者は機能を取り出す必要から、ロジックではなく、試行錯誤で実験を行う場合が多くなる。ゆえに実験ノートには詳しく情報を残しておかないと、後から重複して無駄な実験をすることになる。

 

さて、この時も試行錯誤の実験となったが、300個のサンプルビンを振盪機にかけて一晩おき、翌日そのサンプルビンを観察したところ数個のサンプルビンで明らかに粘度が下がっていた。さらに、そのうち1個のサンプルビンでは、上澄みが透明になっていた。

 

詳細は当方の書いた特許を見ていただきたいが、試行錯誤で耐久試験問題の解答が見つかったのである。何も難しいことを考えてはいない。正しい問題に対して手当たり次第に答えを探しただけである。

 

サルでもできる、というと言い過ぎだが、優秀な科学者の数名が1年かかっても解けなかった不具合現象を電気粘性流体に関する基礎知識のない当方でも一晩で改善できたのである。

 

カテゴリー : 一般

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