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2020.12/17 アイデアの出し方(7)

高純度酸化スズ単結晶について、1980年代に精密な研究が無機材質研究所で行われている。ゆえに「高純度酸化スズ単結晶が絶縁体である」というのは、形式知である。

 

ところがInあるいはSbを酸化スズにドープして半導体から導電体領域の透明導電体材料を開発する研究は60年ほど前から行われており、ITOとかATO透明導電膜が開発された。

 

高純度酸化スズが導電体であるのか絶縁体であるのか、形式知として確定しなくても、酸化物半導体の物性と結晶構造の経験知から、透明導電膜材料としての研究がスタートしていることに注意する必要がある。

 

そして、この材料の研究がスタートした時代に、小西六工業の技術者は、非晶質酸化スズゾルに導電性があることを発見し、特許を書いている。

 

高純度酸化スズが絶縁体かどうか不明の時代に、というよりも電気物性が不明であったがゆえに、このような発見ができたのかもしれない。

 

それから30年以上経過して後輩の技術者が、こんどはそれを否定する研究報告書を書いていた。企業経営における技術の伝承の問題がここには潜むが、ここではアイデアを出す方法論の事例として紹介する。

 

この研究報告書では、科学的に完璧な否定証明がなされていた。形式知から非晶質酸化スズゾルは絶縁体と予想されるので、特公昭35-6616という特許を知らなければ、非晶質酸化スズゾルを用いて透明帯電防止薄膜を開発しようというアイデアどころか動機さえ生まれない。

 

ゆえに否定証明を展開した技術者は、当たり前のアイデアで実験を遂行し、電気粘性流体の研究者たちと同じように、科学的に完璧な報告書を書いた(注)。

 

ところが、このような報告書があっても当方はライバル会社の特許を整理していて、20年以上前のライバル会社の特許に特公昭35-6616が比較例として引用されていることを幸運(努力の賜物の幸運である)にも発見した。もちろんそこには小西六工業の特許などとは書いてない。

 

注意深くライバル特許の比較例を検証したところ、大きくデータはばらついたが、比較例よりも優れたデータを実験で出すことに成功した(当方は、混合則が形式知として用いられていた時代にパーコレーションという不易流行の現象を体得していた)。

 

実施例と比較しても遜色のないデータである。ただ、ライバル特許は、非晶質酸化スズには導電性が無いために結晶性酸化スズを用いるという発明なので、当方の出した実験結果を実施例としたら特許の内容そのものがおかしくなる。

 

ところで、データが大きくばらついたのはパーコレーション転移が原因である。この「ばらつき現象」ゆえにこの比較例や転職した会社の否定証明が生まれている。温故知新や不易流行を理解しておれば、このようなアイデア展開をしないはずである。

 

(注)電気粘性流体の耐久性問題では、増粘を防止できる界面活性剤は存在しない、という仮説について、あらゆるHLBの界面活性剤でも増粘を防止できないことを実験結果を用いて証明している。ところが同じHLB値でも界面活性効果の異なる界面活性剤を当方が発見したことにより、この完璧な否定証明は崩れた。

酸化スズゾルを用いた透明帯電防止薄膜では、パーコレーション転移が起きない条件で実験したために、抵抗の低い薄膜を製造できず、酸化スズゾルを絶縁体として結論つけている。その後当方はインピーダンスを用いたパーコレーション転移の評価技術を開発し、パーコレーション転移を18vol%という低添加率で安定に生じる技術を用いてフィルムの帯電防止薄膜として製品化している。

カテゴリー : 一般

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