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2021.07/09 マテリアル・インフォマティクス(3)

一人平均100ページ前後を1日で理解するために、統計パッケージのどれを使ったらよいのかがわかる程度をゴールとした。一人が「群盲像をなでる」とため息をついた。


そこで「象だとわかっているので、担当分が鼻なのか口なのかけつの穴なのかわかる程度で良いから簡単だ」といったところ、M君が、「そうだ。プログラムがあるから入力の仕方と出てきた答えの解釈の仕方だけ分かればよい」とすでに皆その程度は気づいており、空気を読まない当たり前の不用意な発言をした。


「ならば、M、一人でやれ」と一声でてお決まりの険悪な空気が流れた。日本語の本を読んだ後に分厚い英語のマニュアルとの戦いが、まだ残っているのである。皆グループ研修をまとめられないのでは、と内心心配になってきた。


空気が悪い方向に流れ出したので、指導社員が「できるところまででいい」と新入社員を気遣って言われた。この言葉には、指導社員の本音が現れていたため空気の流れを止めるまでの効果は出たが、ほとんどのメンバーからやる気が抜けた。


指導社員には人海戦術で集められたデータだけが必要で、これらのデータのまとめには興味が無かった。なぜなら軽量化された時の到達重量の予測には、あえてデータを解析しなくとも、経験知から、最も軽いタイヤを参考に改良をすすめて少し軽くなったタイヤの値をその答えとしてもよい。


リバースエンジニアリングを行うだけならば、時間をかけて大量のデータを経験知で解析し、軽量化に必要な知を拾い集めるだけで十分である。実際に指導社員はその作業を行っており、新しい軽量化タイヤの試作依頼まですんでいたことを新入社員に説明していた。


そのような背景があったので、新入社員の険悪な空気の前に、彼は「できるところまででいい」と言うのが精いっぱいだった。新入社員のマネージメントで難しい点は、やる気に火がついたときにその制御が難しくなるところである。


今回は、M君の提案で全員のやる気に一度は火がついたのだが、登ろうとした山が高すぎてどうしようもないと見えてきたところで、登らなくてもよい、というようなものである。それならば努力など必要もない、と考えるのは多くの現代子の思考回路である。


新入社員同士で既にグループ研修の情報交換はできていた。どこの部署も人海戦術が必要なテーマを用意しており、体力勝負のテーマばかりだった。例えば一人3社を担当したタイヤの解剖解析では、指導社員から指導されたようにタイヤを解剖し、細部の構造の指定された寸法や重量、比重などを測るだけの作業だった。


収拾された大量のデータを前に、国内トップクラスの大学で新設されたばかりの情報工学部出身のM君が、データ処理に関して彼のすべての形式知を動員して蘊蓄を語ったことが、多変量解析でデータ処理を行い指導社員の経験知と比較しようという意気込みを生み出した。


タイヤの構造データと言っても、材料に関わる基礎情報である。材料に関わる基礎情報と構造データその他を組み合わせて多変量解析を行い新たなタイヤ軽量化のための知識を取り出す手法は、データ加工にAIこそ使っていないが、マテリアル・インフォマティクスそのものである。


M君の形式知にはこの言葉こそ出てこなかったが、大量のデータがあれば、それを処理することで新たな知を獲得できるという蘊蓄は、メンバーの知に対する欲求を刺激した。ただ、その処理の仕方に関してはそれなりのスキルが求められた。そのスキルを泥縄で獲得しようとしているのだ。


「明日までに、多変量解析のそれぞれの手法がどのような問題解決を目指しているのかだけでもまとめよう」と提案し、その日は、定時よりも早く帰宅し、それぞれが多変量解析について担当分のスキルをまとめる作業をすることになった。


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