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2021.07/10 マテリアル・インフォマティクス(4)

翌日皆の顔は明るかった。なぜなら購入した本の著者の力量が高くうまくまとめられていたので式の理解などしなくても、数ページを読むだけで多変量解析のスキルを理解できたからである。


(このような本は数式を並べてページ数を稼ぎ価格を高くした本、という捉え方もできる。学術書では重要かもしれないが、実務ではワラビや軍配を並べられてもその料理が目的ではない。数式の部とスキルの部の二冊分冊とするのが実務家を対象とした本として好ましい。当方の上梓した著書では、難解な式を極力さけた。パーコレーションもスタウファーの教科書とは異なり、コンピューターシミュレーション結果で説明している。混練を行う時に知っておきたいことだけをまとめた本である。15年ほど前にカオス混合プラントを建設しようとしてゴム会社で学んだメモを探し出し勉強している。この本はその体験からまとめている。)


それぞれの100ページ近くのコピーは無駄に思われたが、100ページ前後を読んだような満足感がこのような場合には重要である。


それぞれの理解した手法の説明を発表しあい、それを皆で検討して、今回のデータ処理には重回帰分析と主成分分析を採用することにした。ただし、それぞれの手法の応用方法は多岐にわたる。


そのため、IBMの統計パッケージには、重回帰分析について5種類ほど準備されていた。但し主成分分析は1種であり、主成分分析を重回帰分析に組み合わせるときには、主成分分析の吐き出したデータを手入力でデータを組みなおす必要があった。


但し、複雑な処理をしなければ、入力データとして同じものを使えたので、とりあえずデータをコンピュータに放り込んで出てきた結果を見ながら、指導社員の形式知と比較しながら(注)、解析スキルを高めてゆくことにした。


例えば、主成分分析については1種類の手法だけだったので、その比較のために心理学で用いられる因子分析も試してみて、教科書に書かれていなかったその手法の特徴を探ることにした。



 

このような手抜き方針でコンピュータに一晩計算させたところ、電話帳1冊分の出力が出てきた。予想外の帳票の厚みに、これまた蜂の巣をつついたような騒ぎになった。新入社員は出力データの多さで騒いでいたが、一人指導社員は予算を心配して青くなっていた。


当時コンピューターはPOS用と技術開発用にそれぞれ1台解放されており、その計算能力から費用を考えなければ湯水のように使える環境だった。すなわち、データを記録したカードセットを放り込めば、いつでも指定した時間に出力が出てくる。


すぐにアウトプットが欲しければ使用料が割高になるルールになっており、そのため大抵は夜中の時間を使う人が多かった。また使用料は帳票1枚がいくら、という基準で決まっていた。これは、専用紙の料金が高かったためかもしれない。コンピューターのリース料は定額であり、消耗品で稼ぐ考え方は、プリンターメーカーと同様である。


(注)統計手法は、ただデータを処理するだけである。ゆえにどのような手法を適切に使うのかは、使用者のスキルにゆだねられている。データ処理した結果、わけのわからない状態になる場合には、データの品質が悪いのか、用いた手法が悪いのかどちらかである。故田口玄一先生は、基本機能をどのように選ぶかは技術者の責任であり、間違った基本機能にタグチメソッドを使っても正しい結果を導けない、と言われていた。日本でタグチメソッドの普及が始まった時に田口先生の講演会で、某自動車メーカーの技術者がしたり顔でタグチメソッドの最適化よりも経験知による最適化のほうがSN比が良かった点について質問したところ、田口先生は動じず、「君が実験に用いた基本機能が間違っていただけだ」と一言。質問者は大勢の聴衆の中で立ったままフリーズしていた。

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