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2021.12/13 高分子材料の密度(4)

N社F100の裏蓋フックは、クリープ破壊で壊れた可能性が高い。それはフラクトグラフィーにより、明らかだった。フラクトグラフィーとは、御巣鷹山の飛行機事故の裁判でも墜落原因を特定するために使われた科学的方法である。


御巣鷹山の飛行機事故では、重要部品の圧力隔壁が壊れこれが飛行機の制御系を壊し、制御不能となった飛行機は御巣鷹山の峰に衝突した、という原因が解明されている。


圧力隔壁が壊れた原因について解明するためにフラクトグラフィーが使われ、墜落した飛行機がかつて羽田で尻もち事故を起こした時の修理方法が悪く、疲労破壊を速めた、というところまで明らかになっている。


フラクトグラフィーという手法では破壊した個所の観察が重要で、その破壊した個所に現れる材料特有の模様から、破壊に至る過程を明らかにしてゆく。


N社F100のフックの破断面をD2Hへマクロレンズをつけて接写して、拡大して得られた画像を見たところ、ゆっくりゆっくり破壊が進行したところと急速に破壊が進行したところが連続的につながっていた。


すなわち、最初に何らかの原因で、ピシッとヒビが入り(この時急速に破壊が進行した波面の状態となる)、樹脂はそれを何とか持ちこたえたが、その後クリープでゆっくりゆっくり破壊していった破壊の様子が一つ思い浮かぶ。


しかし、カメラは防湿庫に静置されていたので、最初の破壊原因としてピシッとヒビが入る情景を想像しにくい。それよりも、裏蓋フックには常時それを開けようとするスプリングの負荷がかけられている。この機構ゆえにフックが外れると裏蓋が勢いよく開く。


すなわち、フックに応力が常時かかっていたが樹脂密度が低いためフック全体のクリープ速度が速くなり、わずかに変形して応力集中が起きたところからゆっくりゆっくりとクリープ破壊が進行した。


その後、裏蓋を開けようとするスプリングの強度に持ちこたえられなくなったところで、ピシッと割れた、という破壊機構の方が波面の模様を説明するために妥当性がある。


すなわち、新たに購入したN社フラッグシップD2Hを使用するようになったため、1年以上防湿庫にF100は眠っている状態となった。この眠っていた間に裏蓋フックの樹脂の分子はバネの応力でクリープを起こし、破壊に至ったのである。


おそらくF100を使い続けていたら、もっと早くフックは破壊し、使用条件の悪い使い方か、製品の設計が悪いために破壊したのか原因不明となっていたかもしれない。しかし、1年以上使わずに放置していて壊れたのである。設計ミスか製造時の品質管理ミスかは明らかだった。


ラインに流れる裏蓋フックに関しフックの密度が低いことを見落としていたならば製造側の品質管理ミスである。もし、スペックで決められたバネの応力が強すぎた、あるいはフックの成形体密度について仕様が決められていなかったならば、これは製品設計におけるミスである。


いずれにせよ消費者の責任ではない。1年以上防湿庫に放置していて重要機能部品が勝手に壊れる様な製品を作っていてはだめだ。ますます製品の売れゆきは悪くなる可能性が高いのですぐに弊社に相談してほしい。設計段階からのロバストを高める手法を伝授します。

カテゴリー : 一般 連載 電気/電子材料 高分子

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