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2022.01/08 材料強度の劣化

昔漫才のような授業の光景に学生一同大笑いした。そしてその後しばらく気まずい空気となった。その授業では、部分安定化ジルコニア製の湯飲みを毎年教授が床に落とす光景が話題となっていた。


部分安定化ジルコニアが高靭性であることを放り投げた湯飲みが割れない現象により、生徒に見せていたのだ。ところが、その日は粉々に割れた。毎年割れない湯呑を生徒の前にかざしてどや顔をして授業を終える教授が噂になっていたので割れた瞬間に大笑いになった。


しかし、それは一瞬だった。皆教授のその後のアクションに同情したような空気になった。数十秒気まずい空気が流れチャイムが鳴って授業は終わった。


部分安定化ジルコニアは、衝撃で微小亀裂が発生するとその部分で結晶系が転移し破壊エネルギーを吸収して亀裂の伝播を止め高靭性化する機構である。湯呑は1度だけでなく数度放り投げた年もあるそうで、さらに教授は訪問するお客があると同じような光景を見せていた。


当時部分安定化ジルコニアの高靭性成形体は先端材料だったのだ。それで放り投げても割れない湯呑は珍しく教授は得意げに皆に見せていた。しかし、靭性向上機構から想像できるように繰り返しの衝撃により1/3以上の結晶が転移すると割れやすくなる。


これは部分安定化ジルコニアの疲労破壊として研究されている。以上はセラミックスの話だが、高分子材料では1980年代に酸化劣化の研究が活発に行われた。すなわち高分子の一次構造の酸化劣化により強度が劣化するという視点からこのような研究はなされている。


そして樹脂材料には酸化防止剤などが添加されるようになった。ゴムでは1979年に入社した時に老化防止剤はじめお決まりの添加剤を配合するように教わったが、樹脂ではそのような決まった添加剤が当時てんかされていなかった。一応紫外線防止剤や熱劣化防止剤など酸化以外の劣化防止剤が開発されているが、特許では様々な配合で添加されていた。


このような高分子の劣化を防止する添加剤が添加されても高分子材料強度は劣化する。詳細は弊社へ問い合わせていただきたいが、ゴムや樹脂の日常使用における化学劣化は、かつて研究で示されたような反応速度で進行していない可能性がある。むしろ他の因子が材料強度の劣化に寄与しているケースが多い。

カテゴリー : 一般 高分子

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