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2023.07/02 TMもどき

故田口玄一先生がアメリカでTMのご指導を始められた1980年代に、当方はTMもどきを発明している。この方法を1992年に先生と初めて面談した時、褒めていただいた。

ゴム会社はQC手法に力を入れている企業の一つで、その製品品質は高く利益率もかつては世界一だった。しかし、その基礎研究所の風土は会社方針など管理職が率先して笑い飛ばすような状態だったので、QC手法は現場の方法として軽視されていた。

ゴム会社には、新入社員全員が日本科学技術連盟主催のBASICコースという統計手法に関するセミナーを1年間受講しなければならなかった。この仕組みの凄いところは1人50万円(当時新入社員の月給は10万円弱)かかる研修を全員に実施していた点である。

さらに毎月行われるテスト結果が上司経由で手渡されていた。タイヤ部門へ配属された同期は戦々恐々としていたが、基礎研究所では管理職の関心が低かったので成績表は開封もされず手渡された。せっかく頑張って成績が良くてもこれではモラールは下がる。

厄介だったのは、コース修了間際の職場実習である。基礎研究所では「科学こそ命」とばかりにダッシュポットとバネのモデルさえもすでに葬られていたぐらいなので、QC手法の実習を指導してくれる先輩社員がいるはずがない。

とりあえず指導社員の名前を書いて実習計画を提出したのだが、上司が書くべき実習の感想も含めすべて下書きを作成する必要があった。この研修終了後、当方は実験計画法を積極的に業務に取り入れた。

しかし、この結果が時々外れる。大外れはしないのだが、必ずしもベストの条件を見出せない。TMを理解すると、これが交絡している因子の配置が悪いとすぐに気がつき、また、配置した因子が誤差因子とした方が良い場合もあったので、それを交絡を評価する列に割り振り、交絡について正しく評価する手順をとるはずだ。

実はこの点に気がつき、制御できない、あるいは難しい因子の内側割付を排除するとともに、信号因子を外部に割り付けて相関係数を使って実験計画法を行う手法を編み出した。

この倉地法(日本で生まれたので漢字表記)による実験計画法でベスト条件が外れなくなった。高分子の難燃化研究を行っていた時で、信号因子としてはもっぱら難燃剤の添加量が用いられている。その結果、実験工数は増えた。

研究所では、実験計画法を意地になって使っている、と笑われただけでなく、効率がいいはずの実験計画法でわざわざ実験工数を増やすアホとまで言われた。

しかし、TMをご存知の方ならば、TMで1つの実験効率が飛躍的に上がるわけではなく、逆に効率が悪くなる場合があることを理解している。

TMで大切なことはロバスト設計にあり、容易にその設計ができることで業務全体の効率は上がるのだ。倉地法も1セットの実験効率は悪いが、その1セットの実験でベスト条件が得られるので結局は効率が上がっているのだが、それは当方にしか理解できないことだった。

ゆえに周囲からは自画自賛の方法と言われたりしたが、故田口先生からは信号因子を外部割り付けする方法を考案したところを褒めるが、それは感度重視の設計なので、その点は改めなくてはいけない、とご指導された。

ちなみにタグチメソッドを田口法と言ってはいけない。先生は生前タグチメソッドはアメリカから輸入された方法なのでカタカナで書くように言われていた。この裏には日本特有の悲しい話がある。

(補足)SiC焼結体の開発は倉地法で行われている。SiCヒーターや、SiC切削チップ、電気粘性流体用特殊な3種の粉体は倉地法で1か月の実験で最適化がなされている。切削チップでは当時東京工業試験所でその性能評価まで終えている(すなわち試作品レベルまで1か月でできたのである)。1セットの実験は大きくなるが、全体効率は倉地法で上がったのだ。

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