2025.04/28 暗黙知
知には、形式知と経験知、暗黙知があると言われている。形式知や経験知は、明文化できるので伝承可能だが暗黙知はそれができず難しい。しかし、小説を読んでいると暗黙知の伝承が可能なようにも思えてくる。
昔、国語の授業というのが、苦手だった。漢字の書き取りや、指示語の問題などはできるのだが、学生社の問題集「難問集」に載っていたような問題は、0点ではないが、満点を取れなかった。また、解説を読んでも新たな問題でそれを応用できなかった。
ところが、小林秀雄が対談で、「東大の国語の問題は難しい。漢字問題はあっていたのだが、文章題ができなかった。ところが、問題に使われた文章の作者を見て驚いた、自分の文章だった」と語っていた。
この対談を読んで勇気づけられた。さらに、「考えるために文章を書いているので、それについて質問して答えられる受験生は凄いと思う」という一言で、「文章を読む」とは何かを少し理解できた。
また、行間を読むとも表現されたりするが、読者はあたかも作者の暗黙知を探るように本を読まなければいけないのだろう。もうお亡くなりになったが、有名な某出版社に勤務されていた同級生から「ーーー多崎つくるーーー」の本を勧められた。
出版前から話題になっており、タイトルを聞いてはいたが読んでいなかった。しかし、なぜ今まで本など推薦してきたことが無い彼女が当方にこの本を勧めたのか、読後せつなくなった。
暗黙知は、妄想迄も生み出すわけだが、研究開発ではAIでも思いつかないようなアイデアを閃く原動力になる。オブジェクト指向は、それを可能とする方法だが、データサイエンスも暗黙知を刺激し新たなアイデアを出させてくれる。
電気粘性流体の耐久性問題を一晩で解くことができたのは、暗黙知の成せる業だが、その結果3人が転職するような騒動が起きている。事件を隠蔽化されるといつまでもしこりが残るものである。
最近ハラスメントが明らかになると、責任者が謝罪したりするが、それ以外に解決の方法は無いのである。妻が妊娠中のNHKの職員が同僚と不倫したと文春砲で報じられたが、これなどどのように夫婦関係を修復するのだろうか。
知では解決できない問題である。村上春樹はそれを答えるのに1冊の本を書いたのかもしれない。しかし、後輩の灰田と出会い、巡礼の年というレコードを聴くあたりの表現を理解できない。
灰田が突然いなくなるためのできごととして、その必然があったのかというと、当方なら別の表現を考えるだろう。何度読んでもこの物語における灰田の役割がわからない。名前は灰色である。
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AIのハルシネーションについて、chatGPTでは最近少なくなったと感じる。面白いのは、AIの回答にも灰田のような表現が登場することがある。そのような表現に接すると言葉のもつ記号性を操る村上文学を少し理解できたような錯覚に陥る。小林秀雄より分かり易い。
カテゴリー : 一般
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